くく竹*忍玉 | ナノ


▽ バラバラピーナッツ


 

 やっちゃった。
 ばれちゃった。

 久々知兵助が教室に帰って、すぐにしたことは、頬を染めることだった。
 まるで頬に心臓があるように脈うつのを、両手で押さえつける。高揚する器官が心臓のポンプを押し出して、血液が全身をめぐる。
「はっちゃん……」
 心臓がハートだというのは、事実なのだろうか。
 今の久々知には目の前のすべてがキラキラして見えた。背中を海老によせて丸めたところ、お腹の上方、つまり心臓辺りが特にドクドクとして見える。
 久々知は、踊らずにはいられなかった。ミュージカルなんぞ見たことがない。しかしながら、それを『そんなこと』と蹴飛ばせるほど、身体が躍りたがっている。
「はっちゃん」
 足が前にとっとと進み、頭が左右に揺れる。高いところで括っておいた髪が、反対に跳ねた。右足を引いて、そのままクルリとひと回り。
 薄く開いた視界に、クセのある自分の毛先が見えたような気がした。







 バラバラピーナッツ






prev / next

[ back ]