▽ SHラジオの時間です。
千葉にだけ展開されているファーストフード店のドアを開けて、入る。
平日のこの時間は客が少ないことを青八木は知っていた。
「いらっしゃいませ〜」
ま、が消えかかったやる気のない声で出迎えられる。無口な青八木は、頭を下げながら会計口の左を目指した。
「空いてる席にお座りくださーい」
す、が聞こえない口調で話す店員が後ろからついて来ている気配がする。
店の左側の通路。突き当り。一人席。
―――青八木の特等席だった。店員の入り口の目の前から少しずれたところで、会計口から見ても一番目立たない席なので、一人で入りやすいこの店の中でも一番落ち着いて一人になれるところだ。
席に座った瞬間、お冷がテーブルに置かれる。ついでお冷。
「お決まりの際はそちらのベルを鳴らしてください」
「……」(こくん)
頭を下げると相手も下げる、そして戻っていった。
やっと一人になれた。
いつ来ても、この席に座るまでは肩の力が抜けない。通路を歩くだけで客にじろじろ見られているような気分になって、早くこの席に行きたい、足動かさないと、と青八木は冷や汗を浮かべながら歩くのだ。
さあメニューを開いて、牛肉の料理を選ぼう―――サイドにあったメニューに手をかけた時だ。
『千葉の隠れ名店、SOHOKUでご食事の皆さま。こんばんは、SHラジオの時間です』
パーソナリティの落ち着いた聞きやすい声。
息つぎが上手で、安心できるリズムのまま言葉を紡ぐ。
『立春とはいえまだまだ寒い日が続いております。そんな日はこのラジオを聞いて、SOHOKUにてゆっくりされてはいかがでしょうか?』
ハテナにそって半音上げ気味の調子が可愛い。
事務的に読むだけじゃないところも人気がありそうな男の人だ。
『今日はお昼から引き続き、ティータイムが大好きなジュンがあなたのお相手をさせていただきます』
SHラジオの時間です。
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