今日は何の日? | ナノ


▽ C


 





時刻は18時39分を過ぎた。
まさかこんな時間に大学に向かわなきゃいけなくなるなんて、今朝の山口は想像だにしなかったに違いない。それもこれもゴールデンウィーク前にレポート提出を忘れていた自分が悪いのだ。ちゃんとカバンにまで入れていたのに、なんという失態!

「あっ。ホッチキスで留めんの忘れてた」

信号待ちでカバンの中身をチェックしていると捲れている紙を見つけ、レポートの紙が留まっていないことに気づく。どうりで右に左にファイルが動くわけだ。紙が折れていなかっただけでも良しとしたいところだ。そういえば自分で持っていたホッチキスはたしか芯が無くなっていたはず。友人たちに貸して! と言われるがままにあげていたら、すぐに無くなってしまったのだ。
これは誰かに借りたいところ―――放課後の大学にいる友人は、と考えてすぐに出てきたのは金田一だ。同じ教育学部の小学校コースの彼ならきっと持っているだろう。だがたしか彼は実家通いのはず。試験が近いわけでもない四月下旬はそそくさと帰ってしまうだろう。なら国見は? と考えて彼も実家だったと思いつく。
なんとも悲しい友人の少なさ……。

「っと」

やっとのことで大学の入り口にたどり着く。春になったとはいえ、もうすでに空は暗くなりかけていた。大学から歩いて10分のところに下宿先がある山口でさえ、家に着く頃にはおそらく紫色の空に見下ろされているだろうな〜と想像がついた。
これは早いところ帰らないと―――とエントランスをくぐり抜けてコンビニの隣を通って、理科の実験室を目指す。

「月島先生……月島先生の研究室は、っと」

前に来た時の記憶を頼りに、山口は一階の研究室の前を歩いていった。エントランスに近い一階には理科系統の先生の研究室が並ぶのだから、この通りに間違いないはずだ。小学校コースの必修科目の件でよくお世話になるのでそれはよく分かっている。
とはいってもこんな夜に訊ねるのは初めてだ。
こんな大学が閉まるぎりぎりの時間まで居たのは初めてで、19時に閉めるための警備員さんとすれ違う以外に誰ともすれ違わないのは新鮮だった。電気も半分ほど消えていてなんとも寂しい感じがする。これが来年になったら卒論とかでずっと残っているんだろうな……と思うと、四回生になりたくないような気もした。

「卒業かあ……」

早くも三年目に突入したことに山口は感慨深くなった。
気付けば苦手だった理科も、小学校教諭免許のために頑張らなくてはいけなくなって一年が過ぎた。初めは高校で履修していなかった生物に悩まされていたが、ダメもとで月島明光先生に相談しに行ってここまでやってこれた。最終的に二回生の後期の試験では驚異の97点を叩きだしたのだから、先生には正直頭が上がらなかった。

(それは山口の実力だから自信持て……か)

こんなに感謝していても先生は笑って山口の頭を撫でながらそう言ってくれたのだから、もう尊敬するしかない。




「あっ、まだ研究室電気ついてる」

山口は提出ボックスのある理科実験室の向かいを見てホッとする。月島明光先生の研究室に電気がついていたのだ。これならホッチキスを借りられるとホッとして、山口は胸をなで下ろした。
理科の実験レポートの提出期限は明日までだが、明日全休の山口としてはこのまま下宿先に帰って実家に戻る用意をして明日帰省する気でいた。そのためにはこのレポートを提出しないと帰られない。でもホッチキスで留めていないと出せない―――ならいつもお世話になっている先生に助けてもらおう! そんな単純な考えだった。
月島先生は優しい。どれぐらいかというと、実験の手引きを読んでこなくても叱らないぐらいだ。……イヤイヤ本当はいけないことなんだけど。
山口はふと思った。

どこぞの同じ苗字の先生とは大違いだ―――と。









だってあの先生は、最後まで何にも言ってくれなかった。
あの日起きた事故のことだって本当に何にもなかったみたいに、忘れたふりをして。まるで山口が白昼夢を見たかのように無かったことにして。……月島は山口に何も教えなかったのだから。
あの日から変に意識をしてしまった山口は残りの高校生活の間ずっと担任を目で追ってしまっていたのにかかわらず、だ。それに気付かない鈍感な月島ではなかったはずなのに、月島は気づかないふりをして何もしなかった。まるで進展することを望んでいないように。


(待ってたんだけどなあ……)

なんだそりゃ、と思いながら山口は苦笑いを浮かべる。
待つとか待たないとかそんな問題じゃないだろうに。告白されることを望んでいる自分がいたことに驚いたのは、ここ最近のこと。高校三年間よか大学の二年間の方が濃いいな〜と金田一たちと話していた際に、ふと思い出したのだ。そういえば不完全燃焼な思いをしたことあったなあ、と。
なら自分から告白すればよかったのか?
と問われても、それとは全く話が違うと山口はすぐに首を振る。だってそれじゃあ思い損だろうから。


恋っていうのは好きになった方が負けだ

―――と言ったのは大学の先輩だった。


なら赤葦先輩は負けたくないから誰とも付き合わないのだろうか……そう悩んだものだ。
別に山口は勝ちたいわけじゃない。負けにいったとしても山口としては、ただ幸せになりたいだけだった。好きな相手と一度でいいから恋してみたい。そんで相手も自分のことを大好きになってくれればもうけものだ、と。



山口は我儘だった。

自分が10ほど相手を想うのなら、相手は25―――自分を想って欲しい。
自分が夜も眠れないほど相手を想うなら、相手は息が詰まって窒息するほど自分を想って欲しい。

……だなあんて、重くて仕方ないだろうなって。想いが重いなんてうまいこと誰が考えたんだかと笑った。山口にしては珍しい、自分を嘲笑するような笑いだった。
そんなに好かれる自信がないのに関わらずたくさん好きになってほしいだなんて、烏滸がましいに決まってる。身の程を弁えればいいのにね……そう言い聞かせて何年たつだろう。少なくとも先日成人式を迎えた山口としては、子どもな部分を捨てたくて仕方なかった。身の程知らずな部分を。
だからこそ思う。
告白してもらえないうちは自分に魅力なんかどこにもないんだ。








コンコン―――

「失礼します……今お時間大丈夫ですか?」


「お、山口じゃん。どうしたの?」

ドアからではモザイクがかかっていて中が見えないので、外から研究室を見学することは早々に諦めた。居るかどうかは分からないが、それでも電気がついているからきっと大丈夫だろうと思ってノックをするとビンゴだったようで、ホワイトボードで隠れたデスクの後ろから身を傾けて先生が驚いた顔をしている。
もしかして電話とかで忙しかったのだろうか?
そう不安がっていると、先生は笑って手招きをしてくれた。良かった、今は大丈夫そうだ。

「ホッチキス借りたくて」
「ああ提出物? 明日までだよな」
「はい。でも実家に帰るんで早めに出したくて……」
「あ〜ゴールデンウィークだもんな、俺は学会の出席で休みなしだけど(笑)」
「お疲れ様です!!」

あんがとう、と言いながら先生はホワイトボードにまた隠れてごそごそとし、少ししてから「あった。」と手を伸ばしてきた。その手に乗っていた大きめのホッチキスはすこし草臥れていたが、ずっしりとした重さでしっかり芯が入ってそうだ。

「ありがとうございます! すみません借りるだけ借りて……」
「気にすんな気にすんな。どうせ実験室開いてなかったんだろ?」
「そうなんです、本当に困ります!」
「あそこ閉まるの早いからなあ、ホッチキス貸し出す場所なのに」

たしかに実験室は閉まるのが早い。わざわざ提出ボックスの上に貼り紙で『ホッチキスの貸し出しは実験室中で』とあるくせに、どこの研究室よりも早く閉まるとはどんなものか……? という不満は教育学部の中でずっと言われ続けてきた。
先生が椅子の背もたれに力をかけて揺れながら、
「また化学の先生に言っとくな〜」
と笑っていたのを受けて山口はピピンとくる。そうだこの人も先生なんだから、もっと早くに相談すればよかったのだと。

「ありがとうございます!!」
「いいって山口クンよ」

適当に手を振る先生。
余計に嬉しくなった山口は思わず言ってみた。

「お礼させてください!」
「え、いやいや。そんな気を使わなくても……」
「いつもお世話になってるんで、何か言ってください。ぜひ!」
「ええ〜そんな気にしなくていいんだけど。……あ」
「なんですか!?」

渋っていた先生が断ろうとしていたが、ふと何か思いついたように手をポンッとする。椅子を転がしてホワイトボードの隣にずれてから、意気込んでいる山口に言った。

「缶ジュース、何か買ってきてくれないか? できれば甘いやつ」







正直規模が小さいような……と思わなくもなかった。
こんなんで日頃の恩返しになる訳がないような気がしたが、頑なにそれでいい! と言い張った先生に負けて学外の自動販売機までやって来た山口。もしかして先生は学生に気を使わせないためにと缶ジュースにしたのかもな。
あの先生ならありうる、と自動販売機の前に来てふと思った。なんていうか……むしろ気を使わせてしまったのかも?
お礼のつもりが一体全体何をしてるんだか、山口はため息が出た。
廊下の電気はすでに消されており付いていたのは非常口の青色ランプと、先生の研究室の灯りのみ。先生は19時までに帰らなくても良いのか?
あとで聞いてみよう、と考えながらドアを押した。

「失礼します。買って来ましたよ先生」

両手でドアを閉めながら見るとまたホワイトボードにデスクが遮られていた。ホワイトボードの端から白衣が見え隠れしている。
待っていても先生の返事がない。……どうしたんだろうか?

「せんせい?」

するとパソコンのキーボードが打たれる音がしはじめた。ブオンっという冷蔵庫の音が重なると下手な合奏のようだった。
キーボードを先生が無言で叩いている時は集中しているサイン―――それがここ一年で山口が気付いたことだ。勉強を教えてもらいに来た回数は両手じゃ足りないほどのもので、その中でお互いに迷惑を掛けないようにと山口が必死に編み出したことだった。
でもだからと言って何をどうするわけじゃない。しいというなら集中している時の先生は本当に無心だから、質問しても意味がないというコト。邪魔にならないようにはやく帰ることもあれば、打ち終えるのを待って質問をまとめておくこともあった。
もっともこの時間の山口は非常に暇だということだけは言える。

「あっちゃ……」

どうしよっかな、このジュース―――。
甘めと言われたからには相当甘いものを、とミルクココアを選んだ。あったかいものが良いのか冷たいものが良いのか、どちらもこの季節には合うのだから迷ってしまった。しかしながらせっかく選んだジュースもこうパソコンに集中されちゃあ、買ってきた意味がないというものだ。
帰るかどうか……いやせっかく買ってきた缶ジュースだ。付箋を貼って置き去りにするだけじゃ、お礼になりゃしないだろう。

「そうだ。レポートの分からなかったとこ、聞こっかな……えっと」

先生のパソコン使用時間はそんなに長くない。四半刻もあれば飽きて肩を鳴らし、そしてこちらに気づくだろう。それまで待ってレポートの質問を一つでもすれば、お礼を言うために待つ口実もできるし。
手に持っていたホッチキスで留められたレポートをぱらぱらとみる。そういえば内容は理科とはいえど化学だ、先生の専攻は生物だけど大丈夫だろうか?
山口は入り口近くに置いてあったテーブルにカバンを乗せながら、ホワイトボードをチラッと見る。まだキーボードを打っている音は続いていて、白衣は猫背気味に丸まっていた。

(月島先生、みたい……)

脳裏に思い出されたのはテスト中に教卓で居眠りをしていた、月島先生……蛍先生のほうだ。彼はかなりの猫背だった。隣に並ぶと背が高いのは一目瞭然だったけど、猫背の上でそうだったということは相当長身だというわけで。
丸まった背が可愛く見えた、というのは山口の内緒事の一つだ。
同じ苗字だと誰もかれも猫背になるのだろうか? 
まさかそんなことはないと思うけど―――てことは、月島先生は蛍先生と兄弟ってこと?
そう考えれば考えるほど山口は喉が渇く。いっそのこと買ってきた缶ジュースを飲んでしまおうか、とすら思ったがそれじゃ意味がないと首を振った。
それに同じ月島という姓だからといって兄弟と決まった訳じゃない。たとえ同じぐらい背が高くても……髪色が似ていても……ってあれ?

「―――つきしま、せんせい?」

思わず小さな声で呼ぶ。
当たり前のように返事はない。

(気のせいだよね……)

山口は苦笑を浮かべた。
さあもうそんなことはどうでもいい。他人に重ねてドギマギされるだなんて、どんなに失礼なことかわからないわけでもない山口なのだから、自分の中で折り合いをつけて頭の中を変えようと考える。
とにかく目の前の優しい月島先生のことだ。生物担当だから教えてくれない、なんて意地悪はされないと思うけど……ややこしい内容ではないからきっと大丈夫だ! そう自分を鼓舞し中身の吟味をはじめる。
山口は小さく呟いて考える。
「ホウ酸の収集率は蒸留水の質量と温度で求める、でいいのかな……」
よしこれを聞こう! 計算があってなかったら大変だもんね、と頷いていると首筋に何かが掠めた。途端にぶるりと肩が震える。
すると次の瞬間、耳の後ろで空気が揺れた。


「後日の収拾量を計算上の収量で割るんだよ」

腰が抜ける。
「ひィっ……!」
手から思わずレポートが離れそうになると、咄嗟に取り上げられて難を逃れる。それを見てほっと息を吐いたのも束の間、持ち上げた手の先を見て喉の奥が鳴った。

「なッ―――つきしませっ、」
「うるさい山口」
「え、あ、すみません?」
「まったく……」

取られたレポートで額を叩かれる。地味に痛い……というかレポートが痛む、と患部を押さえながら羨ましげに見つめてやると、眼鏡の下で月島が冷たく見下ろしているのがわかった。そのことにまたビクリと震える。なんとなくだ、なんとなく―――月島が怒っているのだと分かった。
山口はなんで彼がいるのか聞きたくても、相手が恐ろしくて怖くて訊けない。怒っているならなおさらだ。聞けないまま一刻、一刻とまた過ぎていく。目だけが合う変な空間。お互いが微動だにしなかった。
しかし珍しいことに月島が先に動いた。重いくちを開く。

「なんで僕に聞かないの」
「へ……」
「お前の化学の先生は、僕でしょ?」

―――何を言っているんだろうか。

正直、山口は困惑していた。
だって月島は確かに科学の先生だがそれは高校の、であってこの大学ではない。それに彼とは卒業式以来全くあっていなかったはずだ。同窓会に一度として山口は出ようとしなかったのだから当然のことであるが。
でもそれは面と向かって言えないので山口はやんわりと否定した。

「だって俺……月島先生の連絡先、知りませんし…」
「聞けばいいデショ。なんなら家も教えてあげる」
「え!? そそそれはちょっと、」

そう山口が断るとまた不機嫌そうに月島が眉を寄せる。そのことに山口はビビって身を縮こまらせ、そのままテーブルの下に隠れようとした。しかしながらそれを目ざとく見つけた月島に引っ張り上げられる。
山口は足を掴まれてビックリという声を出した。

「っ、ちょ!?」
「何隠れようとしてんの、逃げれると思ってる?」
「ううぅ……せんせ……月島先生助けてくださいいい!!」
「何?」
「そっちじゃなくてその、大学のっ、生物のほうです!!」
「ざんね〜ん。兄ちゃんはパソコンと仲良くやってます」
「うぐぐ」

やっぱり兄弟だったのか!!

今更知ってももう遅い。知ったところで足を話してもらえるとは思えない……。何がそんなに気に入らないのだろうか? そんなに自分の生徒が化学嫌いなのが気になるのか? こんな兄の大学に訪れてまで?
―――わからない、本当に。いつもいつも……わかったことなんて何にもなくて、いつも遊ばれて、適当にあしらわれて何にもなかったようにされて……いっつも困るのは自分の方だ。
近づいてくるのはそっちのくせして、こっちが覚悟を決めた途端無かったように逃げるんだ。
悪い大人の例を見ているような気がした。
こんな人……こっちから逃げてやるって思った。のに、

(カッコいいんだから、ほんと腹が立ってしょうがない……)

テーブルの脚にしがみつきながら、身を屈めた月島のしかめっ面を眺める。そんなに暢気に見学できるわけでもないが、それでも昔よりはしっかりと見えた。あの事故のときよりも長い前髪だとか睫毛だとか、逆に短い後ろ髪だとか―――あれから三年経ったんだってありありと教えられる。
そしてそのたびにキラキラとした月島に、目が眩むんだ。

「出てきなさい山口」
「いやです!」
「優しくしてる間においで、ほら」
「いやです!!」
「……出てこい山口」
「やーです! パソコンが終わるまで籠城しますうう!!」
「はあ? そんな可愛いこと言って騙されると思うの……騙されるけど?」
「は、え、え?」

思わず変な声が出る山口。
その瞬間手の力が緩む、それを見逃すはずもなく引きずり出された。

「へ」

でもいまだに山口は困惑していた。だってさっきの月島の言葉は、まったくもって、彼らしくなかったのだから。あんな口説くみたいな台詞を冗談だって吐くような人じゃなかったはずだ。しかもこんな真顔で。……なんで?
まさかこの三年の間に軽い人間になってしまったのだろうか―――?
信じたくない仮説に山口が眉を顰めて混乱していると、それを見た月島が今度は吹き出した。

「かわいー」

かわいい、なんてコメントに声が出ない山口は、目を泳がせてから口を戦慄かせるという器用なことをする。そして顔に血が集まって来るのを感じて隠そうとした。しかしながらそこはちゃっかり者の月島、先手必勝と言わんばかりに両手を伸ばして山口の手を掴む。
そのまま力一杯に引っ張って山口の指を引き寄せた。グイッという効果音と共に、山口は月島の胸の前に連れていかれる。その距離は非常に近い、あり得ないほど近い。顔を上げれば鼻と鼻がぶつかるほどだ。
そのときふと山口の脳裏によぎったのは、あの事件の日のことだ。まるでこれは―――

「どうしたの山口、顔上げないの?」
「あ、ぅ……」
「今ならちゃんとしてあげる」

そう言って月島は山口の耳に唇を近づける。


キ ス 


笑ったように震えた空気が耳たぶを掠めてこそばゆい。ふとすれば耳全体を噛みつけれそうな距離に山口が驚いて、身体が固まった。そのくせ口だけは精一杯パクパクと動いてさながら金魚が餌を求めるような姿になっている。
不意にパソコンのキーボードの音が止んだ。しかし山口は気付かない。
その双方の動きに気づいた月島はそのうえで、にんまりと笑ってまるで誰かに牽制するかのように声を大にして宣言してみせた。


「なあんでも教えてあげるよ山口……だから、今度はお前が僕をどう思ってるのか言いなよ」

もう生徒じゃないお前に教えてあげるんだから、当然のお礼デショ?



―――色んな意味を含んで月島は笑った。


















「え? 先生は月島……その、えっと、蛍せんせー……が来てること、気付いてたんですか?」
「おう、だから甘いジュース買いに行かせただろ?」
「(((だからか)))」


「というか蛍せんせーはどこにいたんですか?」
「初めからいたけど?」
「へ」
「ホワイトボードって結構大きいよねぇ……山口と兄ちゃんが話してた時からいたよ」
「……ぅ、きっ、気づかなかったの俺だけ―――」
「かわいかったぞー」
「かわいかったよー」(カタコト)

「ってか、なんで今更来たんですか!?」
「だって成人式迎えたデショ」
「――?」
「もうお前も大人だから。イイだろうと思ったってだけ」


その日―――山口は初めて身の危険を感じた。






おしまい

  

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