本当にあった怖い話でも、しませんか? | ナノ


▽ 降旗の話





咳をして喉の調子を整える降旗が懐中電灯を受け取ると、肩を竦めて小さくなりながら話しはじめた。

それは恐れ多くてそうなったのか……はたまた、なにか思い出して怖くなったのか。








不幸








俺が中学生の頃のことなんで、けっこう最近ですね。
えっと……誰か知ってるかもしれないんですけど、そのことを話します。う゛うう一番槍とか緊張するなあ…。


その当時、俺には仲の良い友達が居ました。
その友達ってのもなんで過去形かと言うと途中で転校して、離れた町に行ってしまったんです。ちょうど二学期の頭ぐらいだったはずです。……一番仲良かったんで、すごくショックでした。あっ…か、関係ないですねすみません!!
ん〜っと話しにくいんで仮名をつけときますね……えっと、『友田』にしときます。


「とーもーだwww それっ友達だからだろww 率直すぎ降旗くんwww」
「あ、やっぱりバレた? 考え付かなかったんだよ、で、その友田もきっと寂しかったんだと思います」


なぜって……なにか中学校でイベントがある度に自転車でやって来てくれたんです。離れても友田は俺を親友だって言ってくれたし、会いに来ては俺とたくさん遊んでくれたし。
だからちょっとずつ離れてしまったことへの不安はなくなっていきました。
むしろ結構離れた距離なのに会いに来てくれて、友田にたいして申し訳ないとも感じていました。


ある日のこと。
その日は丁度、中学校の運動会でした。

案の定、友田は俺のところに自転車で来てくれました。……言い忘れてたんですけど、俺と友田の中学校ってすごく遠いんですよね。本当にシャレにならないぐらい遠いんです、あの、たとえば神戸から淡路島ぐらい? ……それは言いすぎですね! でも、それぐらいを想像してくれたら合ってます。
だから俺とか友田と仲が良い何人かの子は、
「来てくれてありがとうな」
と喜んでました。
面倒だとかは思ってなくて、心から楽しんでいってほしいって―――のに、とある意地悪な男子たちが余計なことを言い出した。

「帰れかえれ〜!!」
「余所者は家へ帰れ!」

って。

俺たちは、ふざけんなっせっかく来てくれたのに!! と当然怒りました。
だけど男子たちは止めません。
そりゃアイツらも冗談のつもりで言ったんだ、って俺は分かるんですけど、なんというか……それは言っちゃいけない冗談のような気がして……。必死に止めましたが、男子は言い続けました。
するとそれを聞いていた友田が、
「わかった」
と言って自転車に乗って、運動会も見ずに帰ってしまったんです。
俺はやっぱりこうなってしまった。と後悔しました。
なんとなくそんな気がしてたんです……友田って、そこまでからかわれることに慣れてる子じゃなかったし……。だからこそ俺がもっと必死に男子を叱っておけばおかった、と帰っていく友田を見て思いました。
 
えっ?
友田を止めなかったのか?

止めました!! そりゃ全力で! 
―――でも俺だけじゃどうしようもなかった。

そう思ったとか言わないでください主将(キャプテン)!!







でも問題はそのあとでした。
 


友田は―――帰り道で、事故死したんです。


ショックでした。
……いや、それどころか頭の中が真っ白になりました。

帰り道で自転車を運転している最中―――泣いてたのかもしれない…もう今となっては分からないんですけど、フラフラとして電柱に激突したそうです。そんでそのはずみで身体が自転車から投げ出されて道路に飛び出て―――あとは想像の通り。いや……むしろ酷い。友田の後ろを走っていた車が転んだ友田に驚いて、避けようとした。っ、けど間に合わなかった……!! そのせいで友田の上でハンドルを切ってしまった、ぐちゃぐちゃになって、それでそんで……あっ、すんません……っ、

―――本当にすみません…この話止めた方が良かったですね、あんまり聞いてて良い話じゃないっていうか……でも、実はこの話つづきあるんです。


……火神、辛いなら聞かなくて大丈夫だからな?

え、俺の方が辛そう?
……そうだな。良かったら最後まで聞いてくれ。

 

ここまでだと怖い話じゃなくて、ただの不幸な話になります。
……今でもよくわからなくて、ここからは俺の直観的なやつになるんですが、話します。

友田のお葬式があるってことで親友代表で俺が行くことになりました。ほかにもクラス代表で委員長の女子と、副委員長の男子、合わせて三人で、担任の先生に友田が在校中に使ってたものを一緒に持って行くように頼まれてたので行ったんです。
……あまりに突然すぎて涙が出ないお葬式でした。かわりに帰り道でぼとぼとではじめて……一緒に居た二人には迷惑かけちゃったなあ。
しかしこの後のことでした。不思議なことが起こったのは。
委員長と副委員長のふたりは運動部に入ってたので、お葬式帰りに学校に寄って午後から部活に参加することになっていました。その日は土曜日で俺は帰宅部だったんで「やることないし俺も学校につきあうよ」って言って、昼食を一緒に学校でとることにしたんです。昼も1時を過ぎちゃって微妙な時間だったんで、部室で食べるんじゃなくて教室で食べよう、って話になりました。
俺、中学のときはバスケ部とか入ってなかったんで―――実はちょっと休日に教室に居るってシチュエーションにちょっとテンションあがったんです。……わかってくれますか小金井先輩、え、早川さんも? やっぱ、ですよね!?
で、その…沈んでたテンションを励まそうとしてふたりも俺との雑談につきあってくれました。いま思えば部活に早くいきたかっただろうに申し訳ないことしたなあって。

30分ぐらい休憩をして、そろそろ部活戻らないと練習試合があるからヤバいーってことになって、座ってた椅子から立ち上がろうとしました。そんな大切な用事があるのにごめん、って俺が謝ると副委員長が、気にすんなって笑ってくれました。同い年とは思えないぐらい男前な性格だと感心して、俺がお礼を言おうとした、そのときです。
俺たち三人の正面にあった廊下の窓に真っ黒の影が走って行きました。
「え、」
ただの影じゃないあれは完全に人の形をしていました。
なのに、あの、学校のドアって真ん中より上に窓ついてるじゃないですか―――黒いんですよ。その影…どこまでも。それにいくら窓越しでモザイクがかかったみたいになった、っていっても普通なら、人の肌の色とか若干違って見えますよね?
……それがないんですよ。
足音もなく、人間で、どこまでも黒かったあれは―――影以外の何者でもなかった。













「そこから俺たちはすぐに教室から出ていって、二度と教室で休日に昼食を食べるなんてことしなくなりました」

あれが友田だったのかそれとも、校舎に昔からいる”そういった類のモノ”なのか、わからないんですけど……そう苦笑いを浮かべた降旗。
話は終わったとばかりに懐中電灯を切ろうとスイッチに手をかけていたがそのまえに、隣からきた指に邪魔されて消せない。降旗は困ったあげく指を伸ばしている火神に声をかける。

「けけっけすな!!」
「俺の話そんなに怖くなかっただろ、火神? オチないし……」
「べべべべつに怖くなんかないっ、けど、ほらっ…暗いのが嫌なんだよッ!!」

しょうがないな〜と降旗が消すのを諦めて、懐中電灯をそのままの状態にしてつぎの今吉のところへと向かう。件(くだん)の人間はにやにやと笑いながら「待っとったで。」と思った以上にフレンドリーに受け入れてくれる。そのウェルカム状態の胡散臭さに降旗は固まりそうになりながらもどうにか、要件である懐中電灯を差し出す。
すると今吉が手を伸ばしながら、さっきの話な〜と話しかけてきた。
ぎくり。
緊張して降旗が身体を止める。

「いやあ気の毒な話やったわ…思わずワシも涙でそうやっし」
「……はあ」
「おお? 降旗くん信じてないな? ワシ悲しいで〜」
「すみません…?」

 目元を覆って今吉が泣くフリをする。そのオーバーリアクションに戸惑って思わず降旗が謝ると、ニヤッと笑いながら今吉が顔を上げる。面白がっている表情に『やっぱり食えない人だ…この人』と降旗ははやく誠凛に帰りたくなる。
 顔にまでそれが書いてある降旗に気づいておきながら、今吉は本題を切り出す。

「で、なんか話すことないか?」


「……え」

「いや〜おかしい思てん。降旗くんの話聞くに、タイトルと内容が合わん気がしてなあ。たとえば、そう…たとえば、やで? この話やったらタイトルは ”会いに来た友だち” とかでもええハズやん? なのに不幸って…ワシならこんな個人的な不幸を題名にはせーへんわ。そうやろ?」
「あ……の、」
「まだほかに隠しとるやろ」

畳みかけられて降旗は押し黙る。
その横顔は焦っているというよりも、どこか―――言っていいのだろうか? と悩む顔だった。

それを遠くから見ていた誠凛。話している内容は分からないが、完璧に降旗が困っているということだけはわかる。どうせそれは今吉がしたことだろうということも。
助け舟を出そうか……と福田と河原が悩んでいると、ぽそり…降旗が言葉を漏らす。







「実は―――友田は転校したって言ったじゃないですか、あれ本当は…父親の多額の借金のせいなんです。友田の父さんって、小さいですけど保険会社を経営してました。けど、そんなに世の中は甘くなくて…すぐに倒産してしまったんです……しかも作ったときに借りたお金も返せずに多額の借金も出来ちゃって、挙句の果てに家を売らないといけなかった。そのせいで転校して親の実家に帰ることになって…。
―――そんなときなんです、友田が事故死したのは。
…幸か不幸かアイツが死んだことによって保険金が入って、風のうわさで聞いたんですけど、保険金を使って借金を全額払い終えたらしいです。でも親はそんなことになっても嬉しいはずがない。むしろ涙に明け暮れる日々だって…だから……」



それこそ不幸だって……俺は思うんです





おしまい。
 


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