朱嘆の華しゅたんのはな 永遠の恋とわのこい朱嘆の華 第五章3
『……。』
朝、紗桜が目を開けたところは、灌木の下だった。
木に凭れかかるようにして寝ていて、両脇にはろくたと駿星が、うまく灌木の下に入り込んで 紗桜を柔らかく挟んでいた。
───起きました?
駿星の言葉に、寝ていたのか ろくたがピクッと頭を上げる。
『うん……』
紗桜はゆっくりと立ち上がり、屈んで灌木の下から出た。
あっ……、駄目だよ……
『……。大丈夫』
小さく微笑んで歩き出した紗桜に、ろくたと駿星は顔を見合わせ、彼女をゆっくりと追いかけた。
『……更夜?』
紗桜は、すぐ近くにある泉の淵で、更夜を見つけた。
彼は振り返り、薄く笑う。
「……おはよう」
『おはよう。……どうかしたの?』
訊ねた紗桜に、更夜は首を振る。
「……なんでもないよ。顔を洗っていただけ」
『だって……』
心配そうな顔をして近づく紗桜に、ばれてしまったか、と更夜は心の中で思う。
紗桜は更夜の横に座り、哀しそうな顔をして彼を見た。
更夜はただ苦笑し、左頬に指を当てる。
「……これか。ちょっと……妖魔の血がね……」
『……。消えないの?』
更夜は、まあねと頷いた。
「毒だろう。血は取れたけど、染み付いた毒が、痕を作ってしまったみたいだ」
『……天仙なのに?』
「そうだな……。わたしはこんなの初めてだから、よくわからないけど……
毒の痕だから、切られたりした怪我、というわけじゃないし、毒が体内に入り込んで病を起こしたわけでもないから……消えないのかもね」
『……ご、ごめんなさい……っ』
更夜は慌てて首を振る。
「大丈夫、痛くも痒くもないし。紗桜が無事で良かったのが、わたしにとっては一番だよ」
破顔する更夜を、少し赤面した紗桜は まじまじと見つめた。