朱嘆の華しゅたんのはな 永遠の恋とわのこい朱嘆の華 第四章5
「────紗桜……紗桜。紗桜、起きて」
更夜は紗桜を軽く揺さぶる。
『ふ……ぅん……??』
眠たそうにぼやいた紗桜に、更夜は続けて言った。
「天馬が……」
『えっ?!』
まだ言いかけなのに、一瞬で飛び起きた紗桜の頭を躱しながら、更夜はくすり、と微笑んだ。
慌てて灌木の根元から這い出し、周りを見回す紗桜。
今は夜中。月は出ていないので、頭上には満天の星空が広がっていた。
そして、その夜空を何かが過ぎ去ったのだ。
『よ……妖魔っ?!』
はっとした紗桜に、更夜は苦笑して首を振る。
「よく見て、……ほら」
もう一度見ていると、頭上を何かが駆けていった。
『え……??』
そして、それに続いて もう一つの影が頭上を過る。
「ろくたと天馬が、追いかけっこをしているんだよ」
『お……追いかけっこ?!!』
確かに、影を見れば それが天犬と無翼天馬だと分かる。
しかし、なぜ追いかけっこなどしているのだろうか。
『……とにかくっ、止めよう』
「ふうん?」
面白そうに笑って、腕を組んだ更夜は、木の幹に身体を寄せる。
『、……止めないの?』
「理由がわからないからね」
『そんなの……止めた後で訊いてやるっ』
意気込む紗桜を見た途端、更夜は軽く吹き出した。
(どうして……こう、変なところで燃えるのだろうか)