朱嘆の華しゅたんのはな 永遠の恋とわのこい
朱嘆の華 第一章6




「やはり、今夜 決行した方がよろしいかと」

「そうか。……では、他の皆にも伝えよう。しっかりと打ち合わせておかねば、いらぬ犠牲が出るやもしれんからな」

「まったく、その通りで」



日が暮れて、商人の男と猟師の中の一人は、薄暗い闇の中で 何かを相談していた。

やがて、そこに随従と猟師たちの全員───紗桜はいないが───を集め、とある打ち合わせを始めた。



───────「ああ、いよいよ今夜なんですかい」
猟師の一人が尋ねる。

「そうだ。───この作戦は危険だが、なるたけ いらぬ犠牲は、俺とて出したくない。
だからな、お前らは 火から離れて、ぴったり地面に伏すか、木に張り付いてるかするんだ。

───俺たちの目的は妖魔なんかじゃない。ここを越えた先の妖獣だ。
……お前らが無事で、皆でまた 合流し合えること……心から祈っている」


主人の言葉に、皆は複雑な(おもて)で頷き、隠れる場所をひそひそと探し出した。





───それから少し経った時。


((今日は……、みんな何だか 慌ただしいな))
あたしは一団を眺め、心の中で呟いた。


一箇所に集まったかと思えば、こそこそと 何かを探している様な事をしている。

今日は朔日だから、月明かりが無い。暗い夜が怖くて、みんながだんだんと離れて行くのが寂しかった。



ふと、肩に手を置かれて 振り返る。
自身をここに連れて来た男───たぶん この一団では主人───が、手招きをしていた。


おとなしくそれに従い、少しだけ歩いた先は、少し開けた場所。

その真ん中辺りに パチパチと火が燃えていて、そこから少し離れた場所に、棒が一本 立ててあった。



((……??何だろう))


まるで、何かの儀式が行われるみたい。
───その時 ふと思ったこの考えは、決して嘘ではなかったのだが……



背中を押され、その棒に近づいた時だった。

いきなり押し倒され、両手首を縄で拘束される。
足首も同じ様にされ、打ってあった杭に しっかりと結び付けられる。


上体を起こされて、腰にも縄を巻かれ、それは立っていた棒に括り付けられた。




───何。


焦りと困惑で、思考回路が上手くいかない。

座った状態で、棒に縛り付けられたあたしの背を、一筋の冷や汗が伝う。



いつのまにか商人の男は消えていて、森の中に、火の燃える音が不気味に響いていた。










カサ..ガサガサ…ッ

『Σ!?』

葉の揺れる音に びくり、と反応して目を凝らしたが、森の中は暗くて、何も見えない。
───それが一層、怖さを引き立てた。



……何かいる。きっと人じゃない。
直感だけど、本当に恐ろしかった。


また、葉が揺れる。ふと、生暖かい風が吹いた。
全身に鳥肌が立って、火のそばにいるのに 身体が震えだす。



~..

何か聞こえた。


~ ~~

また、何か。


よく聞くとそれは────











((嘘───?!! ……嫌、まさか本当に、でもそんな────!!!))




いる。何か。それはきっと……















獣だ─────




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