朱嘆の華しゅたんのはな 永遠の恋とわのこい
朱嘆の華 第一章5




冬至から 数十日が過ぎた。


狩猟などをする人々は、妖獣を狩るため、ほとんどが 道を少し外れて歩いていた。






「───この辺りだな……」

呟いたのは、少女を供にした大柄な商人の男。


「へえ。……この先の狩場に行くには、妖魔の縄張りを越えにゃいけませんで……」

応えたのは、その男の一団に雇われた猟師。


横を歩いている、やつれた表情(かお)の少女は、その二人をチラリと見て、また視線を落とす。

元から白い顔は 更に青白くなり、痩せこけた脚をおぼつかない動作で なんとか動かしていた。



「うん。……まあ良かった、こいつがここまで持って」

「さようで。……ああ、そろそろ日が暮れますゆえ、夜営の準備を」

「そうだな。───おい、止まれ止まれ。今日は ここで夜を明かすぞ」

はい、と軽く返事をした随従や、頷いた雇われ猟師たちは 手早く準備を開始する。


その端で、主人でも随従でも猟師でもない少女 ──── 紗桜は、フラフラと木に向かい、へにゃりと座り込んだ。


息が荒い。

────ちゃんと治療をしていれば、治っていたのに。

額に手を当てて、木の根元に倒れ伏す。


────元いた世界でなら……、よくかかった風邪なのに……






────・・・あたしが最初に意識を失って、次に気づいたのは、建物の中だった。
でもその窓には鉄格子が入っていて、何か怖い感じがした。

寝台の上に横たわっていたあたしのもとに、一人の老女が寄って、何か喋った。
────分かりそうで、分からない。……そんな感じだった。


その家には、優しそうな老夫婦が住んでいた。
風邪をひいていて、寝台で寝たきりのあたしに、とてもよくしてくれた。それに言葉は通じなくても、微笑んでくれる、ただそれだけで嬉しかった。

ある日、その家に 違う誰かが訪ねて来た。
お医者さんの様だった。色々と診察して、老夫婦を振り返り ひとつ。

……首を横に振ったのだ。


言葉が通じない世界に来て、あたしは 動作で人の感情を読み取ることを覚えた。
そしてその動作は、この病は治せない≠ニいう意味だと悟った時────あたしは絶句した。


だって。……あちらの世界では、少し寝込むことはあっても、治療をしてもらえて、完治していた。……ほんとに、ただの風邪なのに。

もしかしたら、この世界では 医療が発達していないのかもしれない。
そう思っただけで、寝てたらいつか治る≠ニ考え、寝台でうずくまっていたのだが──────



まだ風邪が治っていない頃、一人の男が訪ねて来た。

何を喋っているのか、相変わらず分からなかったが、老夫婦はその訪問者に ペコペコと何度も頭を下げ、男は満足そうに頷いて、小さな麻袋を老爺の手に置く。

老夫婦はその中身を見て、表情を明るくさせ、また頭を下げていた。



────そして。あたしはその男に連れられ 老夫婦の家を出て、大門をくぐり、家もちゃんとした道もないこの場所へと 足を踏み入れたのだった。




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