朱嘆の華しゅたんのはな 永遠の恋とわのこい朱嘆の華 第一章4
「いやー、旦那ぁ。ま〜た、面白ぇもん 持ってきてくれたじゃねえか」
無精髭を生やした中年の男が、木の幹に寄りかかっていた 大柄な男に話しかけた。
「うん?…何がさ」
その男は、大きく仰向いて 話しかけてきた方を見やる。
「何って…、アレだよ、アレ」
ふいっ、と顎で示した方には、細い木の下で、しょぼんと膝を抱えている 無口な少女。
「あんな別嬪───いや、まだ別嬪にしちゃあ、早すぎるな。
…だが 将来が有望な感じがするぜ?あの娘……」
「まあ、そうだな」
「だからよぅ、何であの娘を、黄海に連れてきちまったんだ??
自分の妾にしなくとも、売りゃあ高値がつくぜ? 本当に」
「………。そりゃあ、病気じゃなかったら そうしてるかもな」
「?! ───病気なのか?あの娘」
大柄な男は 重いため息をつく。
「おまけに山客だ。……崑崙でもらってきたんだろうな。
こっちじゃ見たことねえ病だって、医者が投げ出したところを、俺が安値で買ったんだ」
「??…もとは、違う奴んとこに居たのか?」
「ああ、気の良い老夫婦さ。ちょうど流れ着いたところを、拾ったんだとよ。…ま、最も 良いと見えてたのは表だけ。
要らなくなった娘を引き取ってくれるのに足して、農夫にしちゃあ嬉しいだろう 小金を貰えるってんで、やすやすと手放しやがった」
「ほう。そんでおめーさんは、その娘を買ってどうするつもりで?」
「……。分かっていることは聞くな」
「ふぅん…、やはりな」
ニヤつく男を目尻に、もう一人の方は、木の下で 体制を変える。
「俺ら商人にとっちゃ、馬の一頭でも 手放し難い代物さ。
妖魔の奴だって、久しぶりの人間を、味わって食べたいだろうよ」
「…だが、何かを囮にしなきゃ越えられねえとこがあんのか」
「俺らは昇山に来たんじゃないぞ。安全な道を通って行くわけじゃない。…俺ぁな、門前街で知り合った猟師に聞いたのさ。
────妖獣の良い狩場があるが、そこに着くためには 妖魔の縄張りを、越えなきゃいけねえってな」
「へえぇ……、ま、上手くいくと良いなぁ、旦那。
俺らも頑張るでよ、また会ったらよろしくなぁ〜」
ひらりと手をあげて、立ち去る男。
残された大柄な男は、ふと 向こうの少女を見た。
────・・確かに あの容姿じゃ、囮にするには勿体無すぎる……。