朱嘆の華しゅたんのはな 永遠の恋とわのこい朱嘆の華 第一章3
今日は安闔日。冬至だから、雁国の令艮門が開く。
今日は特に、昇山などの特別な行事は無く、ただ狩猟などをする人々が大きな門をくぐり抜けて行った。
その中の一団にさりげなく入るのもいいかと思うのだが───
それが、なかなかできないもので。
入るところまではできる。
だが、ほとんどの確率で その後に気づかれてしまうのだ。
────犬狼真君を知っている者に。
金剛山の岩陰から、しばらく ぼうっと人の列を眺めていた。
(…おや。珍しいものが)
遠くからでも分かる、やや長い漆黒の髪を持ち、まだ少しだけ幼そうな、一人の少女が目に留まる。
少女は、病的なまでに白い肌に、同じく白い布を纏い、背は少し低くて すらりとしていた。
(…。昇山でもないのに、わざわざお付き添いか)
大きな列の横を、不安げに歩く少女。
時折 横を歩く大柄な人物と話をしているのか、少し横を向いては またうつむく。
───にしても、黄海に入る少女がこれ程気になるのは、やはり 珠晶の件があったからだろう。
90年も昔の話。
500年程生きてる自分が、90年を "も"と言っていいのかどうか…。
勿論、それから今までの昇山でも、女はたくさんいた。
昇山者には武人のような者が多かったし、これで昇山かと思えるような華奢な者もいた。随従であろう者なら、それより多かった気がする。
……昇山じゃないのに、ってところに 何か感じるんだろう。
昇山じゃなければ、大抵が狩やなんやらだから、そういったものにあんな少女がついて行くとは、あまり思えない……
しかも彼女は、[喪]を意する 白服に身を包んでいるのだ────