。。。空色キャンディ。。。




「ケホっ・・・37.8度」

「あるわね、熱。今日は休みなさい」

「うん・・・」

七瀬はベッドに横たわったまま、母の言葉に頷く。

「今、冷やすもの持ってくるから」母はそう言って、部屋を出ていった。









高野七瀬は羽ヶ崎学園の3年生だ。

普段いたって健康な彼女だが、今日は珍しく熱を出してしまっていた。



(珊瑚礁のバイトと文化祭の準備。やっぱり疲れがたまったのかなぁ・・・)

七瀬は1年生の時から珊瑚礁と言う喫茶店でバイトをしている。

しかし最近、それに加えて近づいてきた文化祭の準備にも追われていたのだ。

今年は学年演劇をやることになっている。しかも七瀬は主役という大役を任されている。

(みんなに迷惑かけちゃうな・・・)

なんて考えても、熱があるのではどうしようもないとはわかっているのだが、それでもそう思わずにはいられなかった。





その時、母が部屋に戻ってきた。

「熱冷ましのシートあったから持ってきたよ。とりあえずこれ貼って寝ておきなさい」

「うん」

「お昼になったら起こすから、少しでもいいから食べなさい。なんか食べたいものある?」

「うーん・・・特にはないかな」

「そ。じゃあ、お粥とゼリーでも用意しとくね」

「わかった。ありがとう」

母は再び部屋を出ていった。

七瀬はシートをおでこに貼る。ヒヤリと冷たさが広がった。

そして目を閉じると、しばらくして七瀬は眠りについた。





「七瀬」と名前を呼ばれて、肩を軽く叩かれる。

七瀬は目を覚ます。

「お昼、用意出来たよ。起きれる?」

「うん、大丈夫」と言って起き上がる。

そのまま母とリビングに行き、昼食にする。

いつもより食欲がなかったが、一様お粥とゼリーをお腹にいれた。

そして部屋に戻り、再び眠る。









次に起きたときは夕方だった。

(そろそろ授業も終わっただろうな。放課後は練習あるだろうし・・・瑛くんにも迷惑かけちゃってるよね・・・)

瑛くんとは、同じクラスの佐伯瑛のことだ。学年演劇にも参加する事になっている。

学校一人気者の瑛だが、実は彼女がいる。それが七瀬だ。

最初こそ素っ気なかったが仲良くなるうちにその中に秘めた優しさに気づき、次第に七瀬は彼に惹かれるようになった。

そして今では、彼氏彼女という間柄になっている。

「・・・会いたいなぁ」と呟いてみる。



その時、階段を上がってくる足音が聞こえ、部屋のドアが叩かれる。

「七瀬、起きてる?」と少し控えめな母の声。

「うん、起きてるよ」と七瀬が返事をすると母が部屋に入ってきて、「お友達がお見舞いに来てくれたよ」と言った。

「友達?」と私は言いながら、誰だろう。千代美ちゃんだろうか?などと考える。

「今下にいるから、呼んでくるね」と言って母は部屋を出る。

七瀬は起き上がって、ベッドの上に座る。

すると再び足音が聞こえ、ドアをノックしてから部屋に入ってきた人物を見て、七瀬は驚く。





「瑛くん!」

それは七瀬がたった今、会いたいと思っていた佐伯瑛だった。

「・・・すごい偶然・・・」と七瀬は小さな声で思わず言った。

「なんか言ったか?」と佐伯はベッドの近くに座りながら聞き返す。

「なっ、何にも言ってないよ?」と七瀬は慌てて否定する。

「・・・そうか」佐伯はこれ以上聞いてはこないようだ。

「瑛くん、お見舞いに来てくれたの?」七瀬は話をすり替える。

「・・・まぁ。いつも元気過ぎるほど元気な七瀬が、風邪なんて珍しいからな」

「うぅー、相変わらず屈折してるよね」しかしそれでも佐伯が来てくれたことが七瀬は嬉しかった。





2に続く
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