。。。空色キャンディ。。。




暑い―――

それが、学校の外に出て最初に思ったことだった。

9月になり新学期になった今日この頃。全国大会に明け暮れた夏休みも終わったが、まだまだ暑さは続くようだ。

眩しい陽射しをおもわず手で遮る。

(早くスタジオに行こう)

そう思い、歩き始めた。





練習スタジオに着き、僕――天宮静は予約していた部屋に入る。

部屋の中はピアノや譜面台などが置いてあるだけで、他に人はいない。

「まだ来てない・・・か」と呟く。

僕はここで、ある人と練習をする約束をしていた。

時計を確認すると、約束の10分前。すこし早めに着いてしまったようだ。

とりあえず持っていた荷物を置き、ピアノの前に座る。そして、待ち人である少女のことを考える。だんだんと胸の内側が温まってくる。

鍵盤の上に指を置き、演奏を始める。

近頃、周囲の人から演奏から人間らしさと温か味が出ていると言われるようになった。

それは全部、彼女のおかげだ。彼女がいるからこそ、今の僕がいる。

最近は演奏をする時にいつも彼女のことを考える。そうすると、自然といい演奏が出来るのだ。



そんなことを考えていると、部屋のドアが開き、1人の少女が入ってきた。

「あっ、もう来てたんですね。待たせちゃってごめんなさい」と彼女は言った。



僕の愛しい人。小日向かなでさん。



「そんなに待ってないよ。それより、走って来たの?髪が乱れてる」と僕は言いながら近づいて、彼女の髪を整える。

彼女は恥ずかしいのか少しうつむいている。

「これで大丈夫だよ、かなでさん」

「ありがとうございます・・・静先輩」とかなでさんは頬を赤らめて言う。

「下の名前で呼んでくれるようになったのは嬉しいけど、敬語は止めてくれないのかい?」と僕は聞く。

「あっ・・・これに慣れてるのでつい・・・本当は、名前呼ぶのだってまだ恥ずかしいんですよっ」とかなでさんは答える。

「・・・まぁ、別にいいか。時間はまだたくさんあるんだから」と僕は言って微笑む。

その言葉に安心したようで、つられてかなでさんも笑う。

「じゃあ、練習を始めようか」という僕は言い、ピアノの前に座って、今日やろうと言っていた楽譜を用意する。

かなでさんも楽譜を出した後、ケースからヴァイオリンを取り出し、構える。

次の瞬間から、部屋の中にはピアノとヴァイオリンの音が満ち始めた。





あっという間に時間は過ぎ、夏は日が長いとはいえ既にうす暗くなってきていた。

もっと一緒にいたいと思うが、あまり遅くまで女の子を外に居させる訳にもいかない。

片付けを済ませて、僕たちはスタジオを後にした。

2人でいるとき、かなでさんは学校や寮であった様々なことを話してくれる。

学校が違い、一緒に居られない分の時間を埋め合わせるかのように、ひとつひとつ丁寧に教えてくれるのだ。

ころころと変わる彼女の表情はとても魅力的で、こんな顔を僕のしらないところで誰かが見ているのだと思うと、嫌な気持ちになる。

けれど今は、僕が彼女を独占出来る。

それだけでも嬉しいけれど、もう少しだけ・・・君を独占してしまいたいと思うから。

「ねぇ、かなでさん。今週の日曜日、予定はあいてる?」と確認。

「日曜ですか?大丈夫ですよ」

「じゃあ、デートに行こうか」

僕の言葉を聞き、かなでさんの顔がぱっと華やぐ。

「はい、行きたいです!」

「良かった。それじゃあ、日曜日の1時に寮まで迎えに行くから」

「わかりました。そういえば、どこに行くんですか?」とかなでさんは聞いてくる。

僕は微笑み、「それは当日までのお楽しみ」と言った。









日曜日。僕は星奏の寮に向かう。

既にかなでさんは寮の前で待っていた。

「あっ、先輩。おはようございます」とかなでさんは笑顔で僕に挨拶をした。

「おはよう。じゃあ行こうか」

2人並んで歩き出す。

ふと、かなでさんをみるとなんとなくうずうずしている様にみえる。

どうやらこれからどこに行くか気になっているようだ。

その表情が可愛くてもう少しみていたいと思うけれど、あまり焦らすのも悪い。

「今日は絵画展に行こうと思ってるんだ」と言いながらチケットをみせる。

「絵画展・・・ですか?」かなでさんは不思議そうな顔をする。

「演奏者にとって誰かの演奏を聴く以外に、どんな芸術作品にでも関わっていくことは大切だよ。だからいつか役に立つ場面があればと思ってね」

「・・・そっか。そうですよね。」かなでさんは納得してうなずく。

「私、絵画展なんて行くの初めてだから、楽しみです」そう言ったかなでさんの顔は本当に楽しそうだ。



―――本当に君は、なんて魅力的な表情をするのだろう。

彼女のこんな表情をみるたびに、絶対に誰にも奪わせはしないと思う。



「あっ、あの、静先輩・・・どうかしたんですか?」というかなでさんの声で僕は現実に引き戻される。

みると彼女の頬はほんのりと赤い。

どうやら無意識に顔をみつめてしまっていたようだ。

「・・・ごめん、なんでもないよ。行こうか?」とごまかす。

「はっ、はい」かなでさんもこれ以上追及してくる気はないようだ。

僕は安堵しつつ歩き出した。





2に続く
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