。。。空色キャンディ。。。




放課後――――僕は1人、普通科の屋上にいた。

ここは、僕と香穂さんだけの秘密の場所だ。

他の人が来ないため、2人きりになりたい時はいつもここに来ていた。

朝、いつもの場所にいると言ったので一応ここに来たのだが、香穂さんの姿はなかった。

(今日は来ない、か・・・・・・そろそろ、帰ろうかな)

そう考えていると、校舎へと続く扉が開く音がした。

続いてコツコツという小気味良い足音。

振り返ると、そこにいたのは―――

「香穂さん」僕は、大切な人の名前を呼んだ。

「来てくれたんだね」と続けて言う。

「・・・うん。待たせちゃったよね・・・ごめんなさい」と香穂さんは言って、頭を下げる。

僕は香穂さんに頭をあげさせてから、「君が謝る理由なんてどこにもないよ」と言った。

「・・・・・・」香穂さんは黙ったまま、僕の顔を見ている。

「とりあえず、座らない?」と聞く。

彼女はコクリとうなずき、足元にカバンを置く。

2人並んで座る。



今日は日当たりがよく、暖かい。時折吹いてくる風も心地よく感じる。

「僕に言いたいことがあるなら言って、香穂さん」と僕はしっかりと彼女の顔を見て言う。

香穂さんは、僕と目を合わせないようにしながら話し始めた。

「・・・・・・私、やきもち妬いてるみたいなんだ」

「やきもち?」

「うん・・・葵くんっていいところたくさんあるから、きっと葵くんのこと気になってる女の子いっぱいいると思うんだ。今日だって・・・」香穂さんは一旦、言葉を止める。

「そうやって考えてたら、どんどんもやもやしてきちゃって。これってなんなのかなって思ったんだけど、すぐわかった。私、やきもち妬いてるって」

そこで香穂さんは僕を見て、「こんなの自分勝手だよね」と無理をして笑顔を作りながら言った。

僕は少し驚いていた。

香穂さんが僕にやきもちを妬くなんて、思っていなかった。

むしろ――――



「僕の方が先にやきもち妬いてたよ」

「葵くんが・・・?」

「君は今日、僕以外の男子にもチョコあげた?」と聞く。

「えっ、うん。あげたよ」

「やっぱりそうだよね・・・それに普段、君と男子が楽しそうに話してるのも見たことあるし」

「・・・・・・」

「香穂さんは交友関係が広いから仕方ないって思うようにしてるんだけど・・・それでも時々・・・君を独占したくなるんだ」

僕の言葉に、香穂さんは驚いた顔をしている。

「他の奴なんか見えないように、僕の腕の中に閉じこめてしまいたいって、思うときがあるんだよ。だから・・・」僕は少しの間、口を閉じる。

「だから、僕の方が自分勝手なんじゃないかな」

香穂さんを見ると、顔を赤くしてうつむいている。

僕は静かに香穂さんが話し出すのを待った。



しばらくすると、彼女は口を開いた。

「・・・葵くんがそんなこと思ってるなんて、知らなかった」と香穂さんは呟くように言う。

「ごめんね、こんなこと言ったりして」僕は謝る。

香穂さんは慌てて首を振りながら、「ううん、謝らないで!葵くんはなんにも悪くないもん」と言う。

「だって、君を戸惑わせちゃったんじゃない?」

「確かにびっくりはしたけど・・・でも、ちょっと嬉しい」と香穂さんは言って、初めて笑顔を僕に見せてくれた。

「そうなの?」

「うん。葵くんは私を大切に思ってくれてるんだって、よくわかったから」

「・・・そっか・・・よかった」僕は彼女がいつもの香穂さんに戻ってくれたことに安堵した。



とその時。

「・・・あっ!いけない、忘れるところだった」と香穂さんがいきなり声を上げた。

「えっ、なに?」と僕は聞き返す。

「チョコ。葵くんにまだ渡してなかった・・・」

「あっ」

今日がバレンタインだということを忘れていた。

香穂さんはカバンの中を探し、「あった。はい、どうぞ」と言って、両掌くらいの箱を僕に渡した。

「ありがとう。開けてもいい?」と僕は受け取って聞き返す。

「うん。一様、手作りなんだけど・・・まずかったら言ってね」と香穂さんは少し上目遣いで言う。

そんな顔されたら、たとえまずくても言えないなと思いながら箱を開ける。

中には、小さなハート型でスプレーチョコがかかったものと生チョコが5個づつ入っていた。

「他の人にあげたのはね、袋に入れただけだし、数も葵くんにあげたのより少ないんだよ」と少し恥ずかしそうに小さな声で言う。

「僕だけ特別ってこと?嬉しいな」と言ってから、ハート型のチョコを口に運ぶ。

口の中に甘さが広がる。けっして甘すぎず、僕の好みの味だった。

「すごくおいしいよ」と僕は素直に褒めた。

「本当?・・・良かったー」香穂さんは満面の笑み。

「あとは家でゆっくり食べることにするね」と言って、僕は箱を自分のカバンにしまう。



「・・・・・・香穂さん」

「ん、なに?」

「今君を、独占したいなって思ってるんだけど・・・いい?」

僕の言葉に香穂さんは頬を赤く染めながらも、「う、うん」とうなずいた。

香穂さんを抱きしめる。

いつもならば大抵これで満足できるのだが、今日はバレンタインだからだろうか。

もっと彼女を独占したいと思ってしまう。

「・・・香穂さん、目、閉じて」

さらに香穂さんは赤くなる。僕の言葉の意味がわかったのだろう。

しかし、黙って目を閉じる。

唇が触れる。

それから顔を離すと、彼女は恥ずかしそうにうつむく。

「香穂さん真っ赤。可愛い」と僕は言って微笑む。

「・・・もう、葵くんったら・・・」

「だって、本当に可愛いだもの」

「うぅ〜・・・帰るっ」と香穂さんは恥ずかしさに耐えられなくなったらしく、僕に背を向けて歩き出してしまった。

「あっ、待ってよ!」と僕は愛しい人の背中を追いかけた――――









fin







どうにかこうにか間に合った、バレンタインデー企画!

今回は、わりと甘いカンジに出来たかな?

もっと詳しいあとがきをブログに載せているので、そちらもよければみてください(^^)

2010.2.14


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