。。。空色キャンディ。。。
昼休み。私は学校の中を歩き回って、ある人を探していた。
その人は、お昼を一緒に食べようと言ってくる女の子たちから逃げるために早々に教室をでてしまうから、みつけるのが大変だ。
しかし私は、目的の人物の背中をみつけることが出来た。
近くまで行き、「瑛くん、やっとみつけた」と声をかける。
一瞬ビクッと肩が動いたが、すぐに声で判断出来たのか、「なんだナツか。追いかけてくる連中にもうみつかったのかと思った」と小さめの声で言いながら振り向いた。
「なんだとはなによ。失礼ねっ」と私は文句を言う。
彼は、佐伯瑛くん。高校2年生。成績優秀、スポーツ万能、おまけに優しい完璧な男の子。羽ヶ崎学園のプリンス。
・・・・・・とまぁ、ここまではうちの学園の大体の人が思ってる瑛くんのイメージなんだけど・・・
実際は、成績優秀、スポーツ万能、ここまでは一緒なんだけど・・・それに加えて負けず嫌いで、チョップとかするの!
それから学校にも内緒で、『珊瑚礁』っていう瑛くんのおじいちゃんがマスターの喫茶店で働いてる。
瑛くんはここでもモテモテで、誕生日とかバレンタインとか、それ以外でもたくさんのお客さんがプレゼントをくれるんだよ。
えっ?なんでそんなに瑛くんのことを知ってるのかって?
うーん・・・そもそもの理由は、私が入学式の日に瑛くんの本性を見ちゃったからなんですよね。
瑛くんはあの日すでに私に性格がばれちゃってるから、隠そうともしないし。
それに加えて、私も珊瑚礁でアルバイトをしてるから、自然といろんなことがわかっちゃったって感じなんです。
瑛くんたら、学校で他の女の子に笑顔を振りまいてるくせに、私にはあんまり優しくなんかしてくれないんだ。
さっきも言ったけど、待ち合わせに遅れたりとかするとすぐチョップしてくるし!
・・・・・・けど、アルバイトの後とかに時々コーヒーを淹れてくれたりする時もあって・・・
将来バリスタになりたいと思ってる瑛くんは、いっつも頑張ってる。
バリスタ以外の勉強とかだって、他の人には見えないところですごく頑張ってるし。
そんなところを見てたからなのかな。
初めのうちは、ただいじわるなだけの人なんだって思ってたんだけど・・・
最近は・・・気になる存在だったりする。
はね学のプリンスだからとか関係なく、ありのままの瑛くんが私は好きになっていた。
瑛くんは好きな子とかいるのかな・・・
「で、俺になんか用?」
「あのね、今度の日曜日に水族館行かない?」
「・・・いいけど」
「ホント?じゃあ10時にはばたき駅で待ち合わせね」
「わかった」
「じゃあ日曜日。楽しみにしてるね」と言って、私はその場を去った。
(瑛くんいいって言ってくれてよかった。日曜日、なに着てこうかなー)
私は思わず笑いそうなのをこらえながら、教室に戻った。
その日の放課後。私は珊瑚礁にいた。
「ナツさん、このコーヒーを3番テーブルに持って行ってください」とマスターが言う。
「あっ、はーい」と私は返事をして客席の方へ向かう。
「お待たせしました」と私は言ってコーヒーを机に置く。
カウンターの向こうへと戻るとマスターが小さめの声で話しかけてきた。
「ナツさん、今日はなんだか嬉しそうですね」
「えっ、そうですか?」
「なんとなく嬉しそうに見えますよ。なにかいいことがあったんですか?」
(いいこと・・・日曜日のことかな)
「はい。楽しみにしてることがあるんです」
「良かったですね。・・・それにしても、あなたがここで働いてくれるようになってから、お店の中が明るくなりましたね」
「そうなんですか?」
「はい。ぱっと花が咲いた感じといえばいいですかね。とてもいい雰囲気です」
「そう言っていただけると嬉しいです」私はニッコリと笑う。
「それに最初の頃に比べると、ずいぶん仕事もうまくなりましたね。去年の4月からだから・・・もう1年2ヵ月になるんですね」
「1年2ヵ月・・・そんなに経ったように感じないです」
「若い頃の時間はあっという間に過ぎてしまいますからね。後悔しないように楽しんでくださいね」
「はい。あっ、私、向こうのテーブル片付けてきますね」と言って、私は再び客席の方へと向かった。
ナツの後ろ姿をみながらマスターは、「本当にいいお嬢さんだ。瑛の気持がわかるな」と言いながら静かに笑っていた。
日曜日。瑛くんと待ち合わせて、水族館に行く。
館内は、水族館独特の幻想的な雰囲気に包まれている。
水槽の中には、大小様々な魚が沢山いる。
この水族館には何度か来ていたが、それでも飽きることはなかった。
「わぁー、この魚可愛い」と私は言う。
「あれは・・・グッピーだって。その中でもパープルグッピーって言うらしい」
と瑛くんが説明が書いてある表示板を見て言う。
確かにその魚は紫色をしている。
「そうなんだ。綺麗な色」私はしばしその魚にみとれる。
「瑛くんもそう思わない?」と私は言いながら彼の方を向く。
と、瑛くんはこちらを見ていたため視線がぶつかり合った。
そのことに恥ずかしくなった私はとっさに視線を少し外した。
でもその前に見えた瑛くんの頬が少し赤いと思ったのは気のせいだろうか?
「・・・ご、ごめん」となぜか意味もなく謝ってしまう。
「あっ、いや・・・」と瑛くんも少し戸惑った感じの返事をする。
「えっと・・・あっ、あっちの水槽には何がいるのかな?行ってみようよ!」と私はなんとか話題をみつけて、明るく言った。
「そっ、そうだな。行こうぜ」と瑛くんは話に乗ってくれた。
私はそのことに安心し、歩き出した。
しばらく色々なところを見て周った後、瑛くんが私に「この後、珊瑚礁に来ないか?」と聞いてきた。
「えっ、珊瑚礁に?」
「実は今日、じーちゃんが店で使う新しい豆を探しに行ってて、定休日なんだ。だから、店でゆっくり静かにコーヒーが飲める貴重な日でさ・・・どうだ?」
「そうなんだ。じゃあ行かせてもらおうかな」
私たちは珊瑚礁に向かった。
珊瑚礁につく頃には夕方になっていた。
「今、コーヒー淹れるから」と言って、瑛くんはお店のカウンターの向こう側へと入った。
私はカウンターの席に座って、瑛くんがコーヒーを淹れている様子をみていた。
珊瑚礁にいる時の瑛くんは、学校にいる時とは雰囲気が違う。
真剣にここでの仕事に取り組んでいる。でも、どこか楽しそうに私には見えていた。
彼は、本当にこのお店が好きで、バリスタになりたいって思ってるんだってことがよくわかる。
そんなことを考えていると、「お待たせしました、お客様」と瑛くんがわざとらしく言って、私の前にコーヒーの入ったカップを置いた。
私は小さく笑った後に、「ありがとうございます」と丁寧な口調で言う。
飲んでみると、程よい酸味がある味だった。私が前に好きだと言った味のコーヒーだ。
「美味しい。さすがだね」と私は誉める。
「・・・・・・」瑛くんは何も言わなかったけれど、少し照れたように笑った。
「瑛くんは本当にすごいよ。ちゃんと自分の夢があって、学校に行きながら夢も実現させようって頑張ってるんだもん」
「そうか?別にそんなやつたくさんいると思うけど」
「そうだけど・・・私は自分の夢って、まだないから・・・尊敬しちゃうな」と私は言って、瑛くんをみてニコリと笑う。
「まぁ、夢なんて探そうとして探すもんでもないからな。そのうちみつかるんじゃないか?」
「・・・うん、そうだよね。じゃあそれまでは、瑛くんの夢を応援するね」
「・・・そうか・・・ありがとう」と瑛くんは小さな声で言った。
(少しずつだけど、瑛くんに近づけてるのかな)
私はなんとなく嬉しくなって、笑顔でコーヒーをすすった。
⇒後編に続く