修兵短編 壱 | ナノ


05

「まだ付き合って無いのよね」

「そうですね」


何でよと訊いて来る乱菊さんは興味津々って感じだけれど、期待されても困る。
そんなに深い理由が在る訳じゃない。


修兵の事は好きだと思う。


ような気がするんだけど、流されちゃいけない気もして複雑だ。

あんなに辛い想いまでして、やっと前を向けると思えたのに……


「何かもう、素直にうんとは言いたくないだけです」


一気に引き戻された想いが、少しだけ色々なモノを呼び起こした。

修兵、待ったのよ〜って珍しく修兵の味方をする乱菊さんは、今までは中立で居てくれたらしい。


実はもう後輩君には、あの後直ぐにごめんなさいと謝った。


『良いですよ。まだ付き合って無いなら俺には同じ事なんで』


諦めませんからと笑った顔が、ちょっとだけ黒い笑みに見えたのは気のせいだと思いたい。


「いつまででも悩んだら良いわよ」


黙り込む私に乱菊さんが微笑んで、でも修兵はしつこいわよ〜とウインクするから苦笑した。


「まぁ、修兵からは絶対に逃げられないから、精々、今の内に好きな事をしといたら善いわよ」

「何気に恐ろしい事を紗也に吹き込まないでくれないっすか」

「あら修兵」

「あら修兵じゃねぇっす」


何って事を勧めてんすかと怒り心頭な顔で、背後に現れた修兵が私を隠すように抱き込んだ。


紗也が本気にしたらどうしてくれんすかっ

あら、私は本気で言ってるのよ〜


って、此処は食堂なんだけど。
そんな大きな声で、私を間に挟んで揉めるの止めてくれないかなと嘆息した。

只でさえ、この二人は目立つのに。


「修兵、離して……」

「嫌だ」


嫌ってちょっと……


「付き合うって言うまで離さねぇから」

「っ………」


嫌ならそろそろ諦めろって、何をシレッとした顔で……

脅迫か。


でも、私は……


「修兵と付き合って、誰かの恨みを買うのは嫌だなぁ……」

「……紗也?」




私はずっと、この甘い脅迫が欲しかったのかも知れないと思った。







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