04

「太刀川さん、何本にします?」
「あー、とりあえず3本でいいだろ」
「了解です。じゃ転送しますね」
「はいよ」

望月より少し遅れて転送された体が、市街地を模した仮想空間に入る。
視線の先数十メートルの位置、まつ毛を伏せて息を吸う仕草まで見えるコイツの顔つきが変わった瞬間、旋空を放つも、好戦的な笑みを乗せながら難なく交わしやがった。

「なかなかやるじゃねーの」
「何百本やってると思ってんですか。それに躱すの分かってて言うとか相変わらずやらしいですね」
「褒め言葉として貰っておいてやるよ」
「それはどーも。ていうかなんで内部通信?」
「いや?なんとなく?」

なんとなくなわけがない。
わざとだわざと。

俺はお前に聞きたいことがあるんだよ。
適当な会話をしながらも互いのブレードは交わってる。間合いを詰めるコイツはガタイが小さい分有利に懐へ潜り込めるが、そんなものとっくに見切ってる俺からすれば望月の攻めなんざおままごと程度。

振り下ろす孤月を全て受け止めてやれば、悔しそうに唇を噛んだ表情が加虐心と共に俺の口角をつり上げた。

「その笑い方やめて下さい、腹立つ」
「仕方ないだろ、お前のそんな顔見りゃ嫌でもこうなっちまう」
「ほんと嫌い」
「俺は大好きだぞ?」
「はいはい」
「とりあえずいっぺん死んどくか」

一瞬怯んだ隙をついて、背後から心臓をひと突き。
入った頃に比べると格段に上がってる望月の技術も、心が不安定だと忽ちボロが出ちまう。無表情で俺の言葉をさらりと躱した風に見せたってバレバレだ。


だから今から俺が言うことにも
事実なら絶対ボロが出ると思った。


「ほら、早く帰ってこい。あと2本残ってるぞ」
「言われなくてもすぐに切り刻みに行きますよ」
「そりゃ楽しみだな」
「絶対殺してやる」

嬉しそうな声で物騒な言葉を吐き捨てた望月が転送される。
コイツは追い込めば追い込むほどいい目をするから、どんなツラしてんのかはだいたい想像がついてた。

案の定、闘争心を剥き出しにした瞳に唇の端を持ち上げた表情は、危うくこっちの心臓まで跳ねさせちまうんだから、つくづく惚れた弱みってやつを握られまくってんだなと思った。

「いい面構えだな」
「そっちこそ。楽しくて仕方ないって顔ですね」
「お前とヤるのが久しぶりだから嬉しいんだよ」
「太刀川さんが言うと卑猥に聞こえるからやめてもらえます?」

ただでさえすばしっこいコイツがグラスホッパーを起動すると、俺でさえ一瞬見失う。
瞬きの瞬間も与えてやらないとばかりに、次に目を開ければあれだけあった間隔は僅か数センチの距離。

あと1秒遅かったら確実に首を跳ねられてたなと思うとゾクゾクしてくる。互いの呼吸音さえ聞こえる近さに、隙があればその色めかしい唇まで奪ってやろうか。

そんな邪な思考を読み取った望月が目を見開いて瞬時に間合いを取った。

「今のわざとでしょ」
「なにがだ?」
「わざと読ませたでしょ、タチ悪すぎる」
「そんな事で怯んだのか?相手の心読み取って怖気付くようじゃまだまだだな」

わざとだろうがなんだろうが、戦略にまんまと引っかかるお前のケツが単に青いだけだろ。何言われようが何思われようが素知らぬ顔してかかってこれないなら、この先どこかでそれが致命傷に繋がるってことをコイツは全く分かっちゃいない。

だからこうやって模擬戦を上手く利用してまで底意地の悪い俺に付け入れられんだよ。




「お前さっき加古と何話してた?」
「太刀川さんには関係のない話しですよ」
「なら質問を変える」
「変えたところで答えられないことは答えませんからね」

こんな風に動揺を誘って、貼り付けたポーカーフェイスをじわじわと崩しにかかることぐらい、俺にとっちゃ朝飯前なんだよ、悪いけど。

「お前最近オトコとヤったか?」
「それ聞いてどうするんですか?ていうかなにこれ新手の虐めですか?あたしの気持ち知ってて聞いてるんですか?」

どうしたよ。
なにそんなムキになってペラペラ喋ってんだよ。
思考にばかり気を取られているせいで前も後ろもがら空きだぞ。

胴体を真っ二つにしたコイツと加古の話しを耳が拾ったのは、望月がちょうど他の男をまた求めてしまいそうになると、覇気の薄い声でそう話してた辺りからだ。

食堂で聞かれた時、酷く気にして探りを入れてくる望月に知らぬ存ぜぬを貫いたのは、あの場で何を聞いてもはぐらかされると思ったから。
だったら自分の得意なフィールドで詰めるほうが絶対的に有利だろ。

「あと1本どうするかお前が決めろ」
「やるに決まってるでしょ」
「なら早く転送しろよ」

自分でも馬鹿だよなと思う。
思い出すだけでこんな棘のある言い方までして。

コイツは俺の女でもなんでもないくせに、確信がなくとも他の男と関係を持ったのかもしれないと思うと、はらわたが煮えくり変えっちまうんだから。

どこにもぶつけられない感情を、事もあろうかコイツにぶつけようとしてしまうのは、少しぐらい意識してくれよと願う自分の弱さだ。

勝手に惚れて勝手に気にして勝手に腹まで立てて。

どうしようもなく勝手な想いは、それでも一度気にしてしまうと後戻りなんざできなかった。

「1本ぐらい取れよだらしねーな」
「なに怒ってるんですかさっきから」
「俺に言えないようなやましいことでもあったからそう見えるんだろ」
「誰が見たって今の太刀川さん不機嫌ですから。もっと自覚してください」

ならお前ももっと自覚しろよ。
誰にどれだけ想われてるか。
どこで誰が聞いてるとも知れない場所であんな話しをするな。

体勢を崩した望月の上で、孤月を振り下ろす間際に放った俺の言葉は、自分の気持ちが確かにそこにあるんだと言うことをコイツに知ってほしかったからだ。





「他の男とヤるぐらいなら俺に一発ヤらせろよ」



返事も待たずに斬り裂いた体は呆気なく飛んだ。
アイツの否定的な言葉なんか死んでも聞きたくなかった。




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