07

「柚宇さん柚宇さん、今日の太刀川さん、なんか変じゃね?」
「ん〜?……あ〜、たぶんあれじゃない?今日花衣さんデートだから」

テスト期間が終わった最初の週末、やっと通常運転に戻った太刀川隊は今日も朝から元気で平和。ただ1人を除いて。

任務終了後、作戦室に戻るや否や、柚宇さんのサンドバッグにさせられたおれは、コントローラーを片手に、ずっと浮かない顔したウチの隊長の安否確認を彼女に耳打ち。

返ってきた答えを聞いて、やっぱりかって思いと、そこまでなるって重症じゃね?って思いと、やっと自分の気持ちを自覚したのかって思いが複雑に絡んだら、何故か笑いが込み上げてきた。

ソファーにふんぞり返って、天井の一点を見つめたまま動かない。そうかと思えば何かを思い出したみたいに端末を弄る。さっきからそれの繰り返し。

つい数分前に訪ねてきた迅さんが、目の前に座ってるってのに、あーとかおーとか、まるで会話になってなかった。

でも気持ちは分からないでもない。太刀川さんからここまでいろんなモンを掻っ攫って行った花衣さんは、今ごろ他の男とよろしくやってんだもんな。おれがこの人でもこうなるわ。そんな立場には、絶対なりたくねぇけど。

「迅おまえ、どこまで視えてた?」
「ある程度は視えてたよ。でも他人の気持ちまで視えるわけじゃないから、まさかそんなんなってるってのは分からなかった」
「そんなんって、なんだよ」
「え、言っていいの?」
「言わなくていい」

花衣ちゃんにダダ甘な太刀川さんがたまーにチラついてたけど、そう言うことかだったのか。太刀川さんの刺した釘を、見事なまでにスルーした迅さん。それを笑顔で睨むこの人の目が据わっててぞっとした。つーか、迅さんのサイドエフェクトがなくたって、太刀川さんの気持ちは誰が見てもバレバレだったぞ?分かってないのは当人同士だけで。

「けどかなり薄かったのに、決め手はなんだったの」
「薄かった?」
「そーそー、太刀川さんがそうやって腑抜けんなる可能性」
「好きでなってるわけじゃねーよ」

でも花衣ちゃんのことは好きなんだろ?って、こっそり呟いたつもりの迅さんの言葉は、申し訳ないけどおれの耳でも簡単に拾えた。たぶん、隣の柚宇さんも。その証拠に視線はゲームに釘付けなくせ、口元が緩んでだらしない顔になってる。

つられておれの口元も緩んでくのは、華の10代、惚れた腫れたが三度の飯より大好きなお年頃だ、寛大な心で許してほしい。

「おい出水」
「はいはい、なんすか」
「あとで模擬戦10本な」
「なんでおれだけ!?」

そうは問屋が卸さないとばかりに、がっつり様子を伺ってた太刀川さんの不敵な笑みが怖すぎる。どうしたって八つ当たりにしか見えない申し出を、拒否ることもこっそりとズラかることもできないのは、後から倍になって返って来ることが分かってるからだ。

どれだけ精神的にキツくても、どれだけ他に気を取られて頭が惚けても、任務やランク戦となると、いつもの太刀川さんとなんら変わらずにやってのける。そう言う所はマジで凄いと思う。

「三角関係の傍観者なんてワクワクするね〜」
「当事者ならぜってぇごめんだけどな」

今度こそ聞かれてたまるかと、テレビの音量を少し上げた。なのにアンタどんだけ地獄耳なんだよ!思わず突っ込みそうになったのは、さっきよりもさらに意地の悪い笑みと言葉がおれに向かって一直線に飛んできやがったからだ。

まだまだおれには、この戦闘バカは手に負えない。マジで勘弁してくれ。

「出水、やっぱ10本2セットに追加な」
「………」





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