生きている意味

22.はじめての夏祭り


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夏とはいえ、夜になると暑さも少し和らぐ。

そして、本日のメインイベントはそんな暑さの和らいだ夜に行われる夏祭りだ。

子どもたちは、陽の高いうちからそわそわと落ち着かないようだった。

彼らにとって夏祭りは、たくさんの出店が並び、花火が上がる夏の一大イベントであり、夜遅くに起きていることを許される数少ない機会なのだ。

そしてここにも、子どもたちに負けないくらい夏祭りを楽しみにしている人物がいた。

もちろん、マガナミのことだ。

シカマルは、昼間から夜が待ちきれない様子のマガナミを遠巻きに見ていた。

縁側から突然立ち上がっては廊下を歩き回り、ハタと立ち止まっては身体を揺らし、また縁側に腰を下ろしては立ち上がり歩き回る。

笑いを殺すのに随分と苦労した。

ようやく日が落ちて、そろそろ出かけるぞと声を掛けた時のマガナミの瞳といったら、ここ最近で一番の輝きだった。



こうして今、シカマル、マガナミ、チョウジ、いの、サクラの一行は夏祭りの会場へと向かっている。

「サワト、残念だったわねー」

いのがのんびりと言った。

「ホント。せっかく退院できたのに、家で絶対安静なんてね」

チョウジが応じる。

「あの容体考えれば仕方ないわよ」

サクラは息を吐いた。

「サワトって、みんなと同じ班だった人?」

マガナミが尋ねる。

「ああ」

シカマルが頷くと、サクラが口を添えた。

「私は違うけどね」

「そうなの?」

「私は第七班、シカマルたちは第十班」

「ふうん?」

「サワトのやつ、お前と会うの楽しみにしてたんだけどな」

シカマルは仏頂面のサワトを思い浮かべる。

――みんなボクの分まで楽しんでくればいいさ。あーあ。

「元気になったら、私も会いたい」

マガナミはそう言ってからハッと口を噤んだ。

そして探るように四人の反応を伺う。

四人は頬を緩めた。

「そうだな。あいつももうじき外に出られるだろうし」

「サワトの快気祝いも兼ねて、パアッと遊びに行きましょ!」

「いいわね!」

「うん!楽しみだね!」

マガナミはホッと笑みを漏らした。

「うん!」



歩いていく通りが少しずつ賑やかになってゆく。

会場が近づいているのだ。

周囲の人々の顔は一様に明るく、期待の色が浮かんでいる。

子どもたちは会場までの距離がもどかしいらしく、親を急かしては服を引っぱった。

マガナミも周囲の子どもにつられてチョロチョロと動き回っている。

「浮かれてるわねえ、マガナミ」

いのがマガナミを目で追いながら笑った。

「楽しみにしてたもんね」

チョウジは破顔する。

シカマルは、今日の昼間のマガナミの様子を三人に話して聞かせた。

容易に想像できる光景だと三人は声を上げて笑う。

「こりゃ、会場に行ったら大変ね」

サクラが肩を竦めた。

「ホントホント」

子どもたちの歓声が上がった。

前方に視線を遣ると、少し先の空間から色とりどりの明かりが漏れている。

いよいよ会場に到着だ。

ワッと子どもたちは駆け出した。

「着いた!」

マガナミも声を弾ませ、こちらを振り返る。

「よっし!私たちも走るわよ!」

いのは掛け声と同時に走り出した。

マガナミも目を輝かせて後を追う。

サクラも走り出した。

シカマルとチョウジは顔を見合わせ、小さく笑ってから後に続いた。


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