29.木ノ葉の里
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頬に風を感じてうっすら目を開くと、白い天井が映った。
そこは室内のようだった。
人工的な光がまぶたにしみる。
視線を右に逸らすと、窓が少し開けられていた。
そこから心地よい風が流れ込んで来ている。
そのまま外の景色に目を移した。
すぐ下に庭があって、花壇に花が植わっている。
青々と茂る木が垣根を作っており、その向こう側に小さな通りがある。
そこを子どもたちが笑いながらかけて行った。
その景色には見覚えがあった。
木ノ葉に来て初めて見た景色だ。
そうか、ここは木ノ葉病院なのだ。
そう気付いて、なんだか泣きそうになった。
自分は時を超えたのだろうか?
外の景色を見ただけではその確証は持てない。
いや、超えたはずだ。
あれだけの傷を受けた自分が、無事でいることがその証拠だ。
「目が覚めたみたいだね」
すぐ側で声がしたので驚いて振り返った。
その目が捉えた人物にもまた、見覚えがある。
最後に会ってからそんなに時間は経っていないのに、すごく懐かしく感じた。
カカシだった。
自分が知っているカカシより少し若いような気もするが、それは時を超えたはずだと思っているからかもしれない。
なにより、顔のほとんどが隠れている状態では判断のしようもないというものだ。
「きみさ、すぐ近くの森に倒れてたんだけど、何があったのかな?」
私は自分の身体を確認する。
痛む所はない。
包帯や絆創膏を貼られている所もない。
見た限りでは健康体のようだった。
なんと答えてよいのか迷って、私は首を横に振った。
「覚えてないの?」
今度は縦に首を振る。
カカシはうーんとうなった。
「きみ、名前は?」
名前を聞かれるということは、彼は自分を知らないようだ。
やはりここは自分がいた木ノ葉ではない。
何と名乗るべきか迷った。
どうやらここではサラと名乗ったようだ。
けれど、自分にはシカマルからもらった名前がある。
なぜそちらを名乗らなかったのだろう?
シカマルの顔、みんなの顔を思い浮かべる。
胸が熱くなった。
希望をくれたみんな。
自分を仲間と呼んでくれたみんな。
彼らにもう一度自分の名を呼んでほしい。
もう二度とそれは叶わないとわかってはいても、願わずにはいられなかった。
けれど、もう二度と叶わなくても、それを承知でこの道を選んだ。
そう、この先の未来で彼らが変わらず笑えるように、この先の未来で『マガナミ』が救われるように、『今』の木ノ葉を守るんだ。
そこで気付いた。
だからあの名前を名乗らなかったのだと。
『今』自分をあの名前で呼んでくれる人たちはいない。
『ここ』にはいない。
彼らはこの先の未来にいる。
あの名前は、自分を受け入れ、名をくれた彼らに呼んでもらわなければ意味がないのだ。
『今』の自分にはまだ名前はない。
だからこの名を名乗ったのだ。
名もなきもの、サラと。
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