26.その後の二人
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その日の夜、マガナミはサワトと別れた丘に来ていた。
この場所で今日、本当にいろいろなことがあった。
自分の存在を根底から覆す重大な出来事だった。
正直、本当の意味でこの事実を受け入れられているのかどうか自信がない。
落ち着かなくて、不安で、眠れなかった。
この事実を明らかにした彼との接点であるこの場所にくれば、何か掴めるのではないかと、ここまで足を運んだのだのだった。
草むらにおもむろに腰を下ろし、膝を抱える。
今になって思い出すことがある。
井染の村人の一人、ネリアはよくものを落とす人だった。
買い物袋いっぱいに溢れた食物は、彼女が歩く度に不安定に揺れ、そしてよく、その食物が袋から転げ落ちた。
彼女は気付かないで行ってしまうことがほとんどだったので、マガナミは彼女が近くを通ると息を殺してその姿を追ったものだ。
食料が手に入る貴重な機会だったからだ。
けれど、今思い返すと、あんなに頻繁に食物を落としておいて、彼女は本当に気付かなかったのだろうかという疑問がわく。
今になって思い出すことがある。
マガナミは住んでいた家の近くに、自分で畑を作っていた。
なかなか作物が育たたない、痩せこけた畑だった。
そんな畑に、やっとの思いで種を植えても、翌日荒らされて目茶苦茶になっていることもあった。
村人の仕業だということはわかっていたが、マガナミにとっては、いつもされているし嫌がらせの一つでしかなかったので、大して気にならならなかった。
ただ、空っぽの心の中を風が吹いていくだけだった。
けれど、今思い返すと、そうして荒らされた後に植えた種は、いつもちゃんと花を咲かせ実をつけた。
自分で土地を耕し、種を植えた時は、芽すら出なかったのに、だ。
ただの偶然かもしれない。
いや、ただの偶然と考える方が自然だ。
村人から受けた仕打ちを考えれば、自分の生まれた経緯を考えれば。
どうかしている。
もう二度と帰れないとわかった今になって、こんなことばかりが思い浮かぶなんて。
あと少し、ほんの少しだけ長くあの生活が続いていたら、何かが変わったかもしれないのに。
あとほんの少しだけ何かが違っていたら、村の仲間になれたのかもしれないのに。
そう思ってしまう。
恋しい。
あんなにも帰ることを恐れていた井染が。
勝手だ。
本当に勝手だ。
――私はもう、帰れない。
マガナミは泣いた。
地面にひれ伏し、力いっぱい泣いた。
慟哭。
この言葉にふさわしく、本能のままに、声が枯れるまで泣いた。
――井染には、もう帰れない。
――私はここで、木ノ葉の里で、生きていく。
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