生きている意味

24.サワトとマガナミ


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二人は小高い丘の上で向かい合っていた。

会話をするには少し離れた距離を保ち、静かに互いを見つめている。

マガナミの足は震えていた。

混乱の間に間に聞こえた彼のよく通る声は、マガナミの心を静めた。

けれど、冷静になった今もなお、マガナミの記憶は彼が村人だと言っているのだ。

時を追うごとに強くなるこの記憶は、とても偽物とは思えなかった。

そもそも、初めて会話を交わした彼の言葉を信じる根拠はどこにもない。

ならばなぜこの場に留まるのか。

今にも逃げ出そうとする身体をその場に押し留めているのは、彼のその穏やかな瞳だった。

一陣の風が突き抜けていく。

草花たちが涼やかな音を立ててなびいた。

熱でよどんでいた空気が一掃される。

「ごめん。恐い思いをさせちゃったみたいだね」

サワトが口を開いた。

「もう大丈夫。今、術を解いたから」

よく響く透き通った声だ。

マガナミは足の震えが少しずつ止まっていくを感じる。

「あなたは誰なの?術って、なに?記憶が偽物って、どういうこと?」

マガナミは彼に問う。

思ったよりもはっきりとした声が出た。

サワトは一度目を閉じて、丁寧に開く。

「ボクの名前は、長郷サワト。長郷一族の長の息子だ」

マガナミはいつかシカマルに尋ねられたことを思い出す。

――長郷一族って知ってっか?

「長郷、一族」

「そう。故郷を持たず、各地を流れ歩く一族。情報を売買して生計を立てている」

「情報を売買…」

「ピンとこないかな」

彼はふわりと笑う。

マガナミは小さく喉を鳴らす。

「シカマルたちの仲間じゃ、ないの」

マガナミの問いに、サワトは一瞬息を止め、眉を顰めた。

マガナミは、ハッとした。

自分がしてはいけない質問をしたのだと気付く。

ああ、彼は悲しんでる。

「違うよ」

答える彼の声は乾いていた。

「ボクたちの一族は幻術が得意なんだ。
彼らにボクが仲間だと思い込ませた。
『侵実相』といってね、自分自身に掛けることで、周囲に影響を及ぼす術なんだ。
効果は二つ。
一つは、近くにいる人々に自分を異物と感じさせなくなること。
群れに溶け込む時に適している。
二つ、こちらがこの術の本質だ。
1分ほど一緒に居ると、他人の記憶に入り込み、他人の記憶を取り込みながら、偽の記憶を作り出す。
その土地の住人になることも、家族になることだって可能だ。
この術で、ボクが彼らの仲間だという記憶を植えつけた」

「そんなことが…」


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