19.信じるということ
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いよいよ夏真っ盛りの里は、うだるような暑さを纏っていた。
絡み付く熱に身体中の毛穴が開き、汗を外に押し出していく。
数歩歩けば額を汗が伝った。
ぬぐい切れなかった雫が目に入って痛い。
シカマルは、強烈な日差しから身を庇うように、頭を垂れて歩いた。
こんな過酷な環境の中でも、木々や草は平然と、いや、むしろ生き生きとしているように見えた。
艶やかな葉は青々と萌え、その葉脈を縦横無尽に走らせている。
ふんだんに日差しを吸収しているからか、ほのかに輝いているようにさえ感じられた。
刺すような日差しは、人間には堪えても、草木にとっては心地よい刺激のようだ。
シカマルは恨めしげに木の葉を一瞥してから、病院の中へ逃げ込んだ。
サワトの顔色はかなり良くなっていた。
運び込まれてから数度意識不明の状態になっていたサワトは、実はかなり危なかったのだ。
シカマルは自然と安堵の表情を浮かべる。
「そんなにあからさまにホッとした顔しないでよ。まるでボクが死にそうだったみたいじゃないか」
気の抜けるようなサワトの声に、シカマルは苦笑した。
「死にそうだったんだよ、実際。ったく、心配して損したぜ。退院できそうなのか」
サワトはヘラっと笑う。
「まあね、もう少し」
「そうか」
「それより、最近里の方はどうなの?変わりない?」
「そうだな、これといって特には…。マガナミの奴もだいぶ打ち解けてきたみたいだしな」
サワトは下唇を突き出した。
納得がいかない時や疑問がある時のサワトの癖だ。
「マガナミ?」
シカマルは、軽く目を見開いた。
「ああ、話してなかったか?」
サワトは肩を竦める。
「初耳」
そういやそうだったかと、シカマルは、マガナミが里に現れて奈良家に身を寄せている経緯を簡単に説明した。
聞き終えたサワトは、ふうんと短く鼻を鳴らす。
「聞いた限りだとなんだかすごく怪しい感じだけど、大丈夫なの?」
シカマルはため息をついた。
「確かに怪しいことこの上ないだろうな。あいつが現れたのは、あの鉱山集落の件が持ち上がった頃と同時期だしな」
サワトは目を微かに細める。
「そうなんだ」
「けど」
シカマルはサワトに視線を合わせた。
「あいつは大丈夫だ」
サワトは興味深げにシカマルを眺める。
「へえ。根拠は?身元も喋らないんでしょう?」
「喋らないんじゃねえ。喋れないんだ」
「どういうこと?」
「あいつは故郷に対して恐怖を抱いてる。何があったかはわかんねーけど、故郷はあいつにとって大きなトラウマなんだ。口にすることもためらわれるほどの、な。だから言えない。それ以上の意味はねーよ」
「ずいぶん肩入れしてるんだね。その子に」
シカマルは、口を歪めて頬を掻く。
「そういうんじゃねーよ。いのやチョウジも同意見だ」
「あ、いいわけ」
「だからちげーって」
サワトはクスクスと笑った。
「冗談だよ。シカマルがそう言うならそうなんでしょ。ボクも会ってみたいな、その子に」
シカマルはニッと笑う。
「まずは退院しろよ」
サワトは大いに苦笑した後、顔の横に両手を上げた。
「それを言われちゃボクは白旗を上げるより他に道がないよ」
「そりゃそうだ」
シカマルは声を上げてカラカラと笑った。
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