12.流サワト
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「そういえば、例のあの子、どうなんだ?」
アスマが調子を変えて切り出した。
例の子、とはもちろんマガナミのことだ。
「あ、ボクも気になってたんだ。シカマルの家に移ってからどうなの?」
シカマルは言葉を探して小さく首を傾げた。
「どうって…ガッチガチに固くなってんな。まだ来て間もねぇしよ。母ちゃんがチョイチョイ声掛けてるみてーだけど、手強そうだな、ありゃ」
「そっかー…」
「まー、慣れない土地、慣れない人だからな。仕方ないさ」
アスマは軽く頷いた。
そしてその目を少しだけ細めると、それより、と声を落とした。
「その嬢さんの周りに妙な動きはないのか」
シカマルもつられて声を低くする。
「ああ。今のところはな。親父にも母ちゃんにも、事情は一通り話して注意してもらってるが、怪しい動きはなさそうだ」
「そうか。ならいいんだが」
「けど油断はできねぇっスよ。姿が見えない奴ってのは厄介っスからね」
「そうだな」
「ボク、お見舞いに行きたいな」
チョウジが、今の話を聞いてか否か、間延びした声で言った。
二人は毒気を抜かれて顎を落とす。
しばし顔を見合わせてから、チョウジに視線を向けた。
「入院中、一度お見舞いに行ったきりで、退院する時も会えてないしさ」
照れくさそうに頭を撫でるチョウジに、シカマルは笑みを零す。
「そうだな、今はまだ家に慣れんので精一杯だろうから、もうちっと落ち着いたら遊びに来いよ」
「うん!」
「おーい、みんなー」
通りの向こうからひょろりとした男がゆるゆる手を振りながらやってきた。
サワトだ。
日の光の下で見る彼は、夕日の中で見た彼と少しだけ印象が違う。
歩みに合わせて軽く揺れる赤髪は、昨日の記憶より茶が強い。
悠々とこちらを見つめる瞳は、オレンジに近い琥珀色といったところだ。
といってもかなり色が薄い。
じんべえ風の薄い青緑色の上着を羽織り、麻色の七分丈のズボンを履いている。
腰には紺色の帯。
そう、これが彼のスタイルだ。
「あっ、サワトー!」
チョウジが大きく手を振った。
歩調を変えることなく三人の下に辿り着いた彼は、ちわ、と右手を挙げた。
おう、とアスマが応じる。
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