02.小さな異変
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シズネの気配が去ったのを見て、綱手はひとつため息をついた。
「ところでシカマル、身元不明の少女を拾ったそうだな」
やはりこの話も出るか、とシカマルは心中小さく舌打ちをした。
「ええ、まあ」
「里の者以外は病院を利用できないことは知っているだろう」
「そうは言っても、死にそうなやつをそのままにしとくわけにもいかないでしょう」
「それはそうだが、その少女が里に脅威をもたらさんとも限らん」
それはシカマルも懸念したことではあった。
「じゃあどうしろってェんです」
頭を掻くシカマルに、綱手は考え込む風な表情をつくる。
「その少女、何者か見当はついているのか」
「いえ、今のところ全く正体不明です。病院に知り合いが尋ねてくる様子もなかったようですし」
「…少女を発見した時の様子、詳しく話せ」
シカマルは、自分が少女を見つけたときの状況を説明した。
異様な気配があたりを満たしたこと、突如背後から少女が降ってきたこと、その途端異様な気配が消えたこと。
綱手は、黙ったまま自分の手元を見つめている。
何かを逡巡しているようだ。
しばらくして、スッとシカマルに視線を合わせると、おもむろに口を開いた。
「その少女が既にこん睡状態だったとなると、少女を運んだ人間がいるということか。だが、お前は何者かが立ち去る気配は感じなかった、そうだな」
「はい」
「…目的は何だ。そもそもどうやって里に侵入した?おいそれと侵入できる場所ではないものを。なんにせよ、悪意があって里に入り込んできたとしたら事だ」
くるりと椅子を回転させて立ち上がり、窓から外の景色を見下ろす。
「里のものを危険にさらすことだけは許されない」
窓ガラスを人差し指でコツコツと叩く。
「しかしだ。少女自身を危険だと判断する証拠も何もない。それに、瀕死の少女を放っておけないというお前の気持ちもわからないでもない」
綱手は、もう一度シカマルのほうに向き直ると、にやりと笑みを浮かべた。
シカマルは嫌な予感がした。
五代目のこの表情は、人に面倒ごとを押し付ける時の表情だ。
「よし、特別に少女を里においてやろう。その代わり責任はお前が持て。少女の面倒はお前が見るんだ。いいな、シカマル」
やっぱりな。
うんざりとした表情でため息をつく。
「冗談きついっすよ、他人の面倒見るなんざ、オレには向かねえっす。しかも女」
「向き不向きの問題ではない。責任の問題だ。
望むにしろ望まざるにしろ、これはお前が持ってきた案件だ。最後まで責任を持って対処しろ。
侵入者の警戒はこちらでしておく。が、少女の処遇はお前に任せる。いいな。
では、鉱山村の件は暗部からの報告が届き次第、追って連絡する。以上だ」
まくし立てるように話を切られ、処理が溜まっているとうるさそうに部屋から追い出された。
しんとした廊下にポツリとたたずみ、人気のない通路を漫然と眺める。
なんとなく予想はしていたが、と、シカマルは大きく肩を落とした。
その翌日、さらにその翌日と、シカマルは少女の様子を伺いに病院へ赴いたが、少女が目を覚ます気配はなかった。
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