生きている意味

11.マガナミ -ふるさと-


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――近寄るんじゃないよ、穢れがうつる

スッと胸が冷たくなった。

表情が固く強張る。

その様子を見て、ヨシノがマガナミに近づいてきた。

「どうしたの?具合悪い?」

マガナミは首を横に振る。

そうではない。

あなたたちは今、大きな過ちを犯そうとしているのだ。

「そっか、緊張してるのね。仕方ないか、あんな厳ついおじさんが同じテーブルにいちゃあね」

ヨシノはシカクの方を振り返る。

シカクはギョッとして、拗ねたように顔を背けた。

「悪かったな、厳つくて」

「大丈夫よ、顔は厳ついけど、ああ見えて意外と大人しいから」

ヨシノは、マガナミをグイグイといすへ押しやる。

違う、そうじゃない。

私は、私は…

自分が、穢れた忌むべき存在なのだと、どうしても口に出すことができなかった。

罵られ、蔑まれ、自分でもその通りだとは思っていても、それを口に出すのは悲しすぎた。

このまま黙っていれば、この人たちは気づかないかもしれない。

そこまで考えて、マガナミはふと思った。

この人たちは、やっぱり私のことを知らないのかもしれない。

でなければ、こんなに無防備に自分と触れ合うことはしないだろう。

だとすると、今までの笑顔や親切にも、決して裏などないのではないだろうか。

ちくりと希望が胸を刺す。

「お、かわいいお嬢さんじゃねぇか。シカマルも隅に置けねぇなァ」

シカクがシカマルにニヤニヤと笑みを向ける。

シカマルはうるさそうに視線を逸らした。

「言ってろ」

――おやまあ、かわいいお嬢さん

ヨフテの舐めるような声が聞こえた気がした。

ダメだ、そんなことがどうしてわかる。

何か別の意図があって親切なフリをしているだけかもしれないではないか。

何のために?

別の意図とは何だ?

わざわざ穢れを手元に置いてまで得られる利益があるというのか?

反論の声が上がる。

そんなのわからない。

だが、今まで何度希望を打ち砕かれてきたか、忘れたわけではないだろう。

「さあ、いただきましょう」

ヨシノの合図で皆がいただきますと箸を取った。

結局何も言い出せず、マガナミも大人しく箸を取る。

「全部食うまで、席立つんじゃねーぞ。うちはお残し禁止だかんな」

シカマルに釘を刺されて慌てて頷いた。

改めて、と言ってヨシノとシカクが自己紹介をした。

何度かこちらに話を振られたが、なんと答えたのか、それとも何も答えなかったのかよく覚えていない。

ただ、鉛が詰まったような喉に、目の前にある食事を詰め込むのに必死だった。

味などしない。

そんなことよりも、マガナミは、自分の身体から滲み出ている穢れが、この食卓全体を黒く覆っていくように思えて、いつ気づかれるのではないか、もしかしたらもう気づかれているのではないかと気が気ではなかった。





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