生きている意味

11.マガナミ -ふるさと-


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マガナミの瞳に、白い壁がぼんやりと映った。

白、とはいっても、日はすっかり落ちており、部屋は暗闇に包まれている。

それでも周囲の様子がなんとなく見えるのは、障子を通して入ってくる月明かりのせいだろう。

辺りはしんと静まり返り、規則正しい虫の鳴き声だけが、わずかに空気を震わせていた。










でも、私は、生きてる。




何故、生きている?





たぶん、結局あの光には届かなかったのだろう。

きっと、あそこが私の呪われた生からの出口だったのだ。

――あなたのその怪我、めったなことで負うものじゃないわ。何があったか、覚えてる?

そう言われた時、目を伏せて小さく笑みを浮かべたのは、そうしなければ、底なしの沼に沈んでしまいそうだったからだ。

何があったか?

「何もなかった」のだ。

歪みがもたらした平穏の破壊は、その歪みの根源の粛清によって終結するはずだった。

だが、私は生きている。

全ては失敗に終わったのだ。

死んでもおかしくなかったと、白衣の男性に言われたのに。

どうして天秤はこちらに傾いてしまったのだろうか。





怪我は罪の刻印ではない。

でなければ、こんなに綺麗に消えてしまうはずがない。

あの怪我は、私をこの世に引き留めるために掴んだ、母の爪痕なのだろう。

だから、留まったことを確認した今、その軌跡を消したのだ。

母は、まだ私を許してはいない。

村人たちの思いよりも、母の思いのほうが強かったのだ。





あの時、崖から落ちた時、これで全てが終わると、歪みは改められると思った。

きっと言笛は発見され、村人たちは救われるだろうと。

けれど、歪みはまだ続いている。

それじゃあ、村の人たちはどうなったの?

両手で顔を覆い、小さくうずくまる。

私はこの先、いつまで生きなければならないのだろうか。





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