11.マガナミ -ふるさと-
(12/15)
マガナミの瞳に、白い壁がぼんやりと映った。
白、とはいっても、日はすっかり落ちており、部屋は暗闇に包まれている。
それでも周囲の様子がなんとなく見えるのは、障子を通して入ってくる月明かりのせいだろう。
辺りはしんと静まり返り、規則正しい虫の鳴き声だけが、わずかに空気を震わせていた。
でも、私は、生きてる。
何故、生きている?
たぶん、結局あの光には届かなかったのだろう。
きっと、あそこが私の呪われた生からの出口だったのだ。
――あなたのその怪我、めったなことで負うものじゃないわ。何があったか、覚えてる?
そう言われた時、目を伏せて小さく笑みを浮かべたのは、そうしなければ、底なしの沼に沈んでしまいそうだったからだ。
何があったか?
「何もなかった」のだ。
歪みがもたらした平穏の破壊は、その歪みの根源の粛清によって終結するはずだった。
だが、私は生きている。
全ては失敗に終わったのだ。
死んでもおかしくなかったと、白衣の男性に言われたのに。
どうして天秤はこちらに傾いてしまったのだろうか。
怪我は罪の刻印ではない。
でなければ、こんなに綺麗に消えてしまうはずがない。
あの怪我は、私をこの世に引き留めるために掴んだ、母の爪痕なのだろう。
だから、留まったことを確認した今、その軌跡を消したのだ。
母は、まだ私を許してはいない。
村人たちの思いよりも、母の思いのほうが強かったのだ。
あの時、崖から落ちた時、これで全てが終わると、歪みは改められると思った。
きっと言笛は発見され、村人たちは救われるだろうと。
けれど、歪みはまだ続いている。
それじゃあ、村の人たちはどうなったの?
両手で顔を覆い、小さくうずくまる。
私はこの先、いつまで生きなければならないのだろうか。
(12/15)
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