11.マガナミ -ふるさと-
(11/15)
ああ、これは涙だ。
私の、涙。
泣いて、いるの?
いつぶりだろう?
涙を流すのは。
もう、枯れてしまったと思っていた。
涙なんて。
なんで、泣いているの?
安心したから?
やっと開放されて。
うん。
そうだね。
あとは。
深い、深い、悲しみ。
――最後まで、私はこの世界に受け入れてもらえなかったんだ。
受け入れてくれる、場所がほしかった。
私が存在してもいい場所が。
無駄だと、わかっていても、望まずにはいられなかった。
遠ざかってゆく雫に手を伸ばす。
――認めてほしかった。
柔らかくて鋭い、暖かな何かが、辺りを突き抜けた。
草が、木々が、鳥が、命が、一斉にざわめく。
世界が、より一層輝きを増した。
唐突に、わかった。
これは、風の感じている世界だ。
空の空気、森の吐息、土の匂い。
ひとつひとつの表情が、こんなにも、愛おしい。
風は、こんな世界を感じてるんだ。
なんて、濃密で――
美しいんだろう――
私も、こんなふうに、世界を感じていたい。
世界を愛したい。
もしも、生まれ変われるのなら――
風になりたいな。
世界のどこにでも存在して、誰もがその存在を感じ、誰もその存在を意識しない。
自由で、雄大な、風。
そうやってそっと、命の煌きを眺めていくの。
愛と安らぎに満ちた、歪みのない、優しい世界を。
誰も私に気づかない、でも私の存在を許容してくれる。
いいな、そうなれたら――
光の輝きが強くなる。
その刺激に逆らうことなく、マガナミは静かに瞳を閉じた。
次に目を開けたら、きっと――
意識は、光に溶けていく。
――きっと――
(11/15)
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