生きている意味

11.マガナミ -ふるさと-


(10/15)


刹那、マガナミは自分が世界から浮いたような感覚を覚えた。

全ての感覚が自分へと収斂され、なおかつ世界中に拡散していくような不思議な感覚だ。

時のしがらみを抜け、空間が膨張する。

どうしたことだろう。

ふわふわしていい気分だ。

といっても、本当に浮いているわけではない。

身体には押しつぶされるほどの重力を感じている。

にもかかわらず、通り過ぎてゆく景色は、ひどくゆっくり、はっきりとしている。





そして、その風景の荘厳かつ暴力的な美しさに、マガナミは心を奪われた。





こちらの眼前に迫ってくるような、臨場感、躍動感。

世界はあまりに生き生きとしていた。

視界はどこまでも冴え、聴覚は全ての聖なる音を拾い、嗅覚は清らかな香りをふんだんに運んだ。

空は手で触れられるほど近くにあるようで、果てなく高い。

森や草の緑はむせ返るほどの生命力を放ち、土は、底深い懐かしさ…帰るべき場所を想起させた。





きれい――





世界は美しい。



こんなにも。





今まで、自分ばかり見ていたから、全然気づかなかった。





視界が一瞬揺れた。





なんだろう。





目を閉じる。





そして、次に目を開いたとき、宙に、きらきらと日の光を受けて光る、宝石のような粒が浮かんでいた。

不安定に形を変えながら波打つように揺れている。





みず?





透明なその粒は、周りの景色をその内に映し出し、それはまるで、小さな世界を内包しているように見えた。






(10/15)

- 71/232 -

[bookmark]



back

[ back to top ]

- ナノ -