生きている意味

11.マガナミ -ふるさと-


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目にした光景を振り払うように走り出した。

この村は、井染はどうなってしまうのだろうか。

ほかの人たちは、どうなったのだろうか。





みんな、もう…?





神殿へ行こう。

何かがあったとき、村人たちは決まって神殿に集まる。

あそこに行けば、きっと何かわかる。





マガナミはさらに森の深くに入った。

ほとんど道とは呼べないような獣道のうち、一つが神殿の裏手へ通じている。

マガナミが作った道だ。





私を人として、井染の人間として扱ってくれる人など一人もいなかった。

優しく手を差し伸べてくれる人も。

それでも、私はここで育った。

ここしか知らないのだ。

壊さないで。

やめて、やめてよ。





――村人どもを不幸にして、自分も不幸になって、せいぜいもがき苦しむがいいわ





お母さん、今、喜んでる?

それとも





――ごめんね





悲しんでる?










神殿の裏手に出た。

そこには、マガナミの予想通り、井染の人々が集まっていた。

皆一様に不安げな顔をして、同じ方向を見つめている。

マガナミは視線の先を追った。





集まっていたのは、井染の人間だけではなかった。

今まさにミナ地に攻め入っている浅黄の異人も、井染の人々と対峙する形で神殿の前に姿を見せている。





井染側に、みんなを守るように一歩前に出ている人がいる。

族長だ。

族長と浅黄の異人の一人がやりとりをしているようだ。

「もうやめてくれ。我々は戦う術を持たぬ。抵抗もせぬ。これ以上は…」

「我々はこの土地が欲しいのだ。いいかな。人間はもっと洗練されるべき種族。そのためには、我ら穂立見一族のような優れた部族が、よりよい環境で繁栄せねばならん。お前たちにここにいてもらっては困るのだよ」

穂立見一族。

私たちの他にも一族がいるんだ。

今まで思いつきもしなかった。

しかし、考えてみれば当たり前の話かもしれない。

ホダツミ、それがあの人たちの一族の名前。

「だから、我々は抵抗はせぬと…」

「他民族と交わるわけにはいかないと、息巻いていなかったか」

「……我々は、もう仲間を失いたくはない」

穂立見一族の男は、にたりと笑みを浮かべた。

「基本的には皆殺しの命が出ているんだが…」

井染の人々が息を呑む。

短く悲鳴が漏れた。

「まぁ我々としては部族の拡張にやぶさかというわけでもない。そうだな。忠誠の証を見せてもらおうか」

「…忠誠の証。……何をすればいい」

「この一族の宝を差し出せ。なければそれに相当するものでも構わん」

ざわっと辺りに動揺が走った。

控えめな抗議が靄のように沸く。

「ほう、その反応は、どうやらあるらしいな。一族の宝が」



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