生きている意味

11.マガナミ -ふるさと-


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マガナミは、村の様子がおかしいことに気づいた。

異様に騒がしいと思っていたら、間もなくそこに悲鳴や泣き声が混じり、やがて、今まで聞いたことがない規模の人数の叫び声が轟いた。





この村で何かが起こっている。





いまだかつて経験したことのない事態だ。






あちらこちらで激しい爆音が上がる。





しかもそれは、恐ろしく、絶望的な、井染の暮らしの根本に打撃を与える事態であるようだ。

マガナミは、自分の静かな直感に身体を強張らせた。










やがて辺りの喧騒が収まり、気味の悪い静寂が流れた。

マガナミは恐る恐る外へ出る。

身体を包んだ空気が、この時期にしては暖かい気がした。

マガナミは、井染の人々の暮らす集落から少し外れた、崩れかけた小屋で生活していが、この場所にまで、焦げくさい、何かが焼ける臭いが漂ってきた。

あまりの刺激に顔をしかめる。

おそらく尋常でないものが焼けている。

鼻にまとわりつき、絡みつくその異臭は、濃厚で生々しく、圧倒的な存在感を誇示していた。

反射的に集落に目を向ける。

その瞳に映った、あまりに現実離れした光景に、マガナミは絶句した。





そこは集落ではなかった。





マガナミの視線の先にあったのは










地獄だ。










家であったものは瓦礫と化し、そこかしこで火が上がっている。

草地は消え失せ、地面は黒ずみ、水場は干上がっていた。

そして、焼け焦げた地面や、崩れた瓦礫の合間には、大量の血を流した村人たちが、ものも言わず、横たわっていた。





死んで、いる――





遠目に見ただけで、わかる。





生を失った空間。





背筋が凍る。





突き刺さる矢じり。

溜まった血の池。

火の粉を舞い上げる炎。

何かを求めるように瓦礫から突き出た腕。





心臓が大きく脈打った。





何が、起こってるの――





底知れぬ恐怖に身体が竦む。










こちらへ迫ってきていた火が、すぐ側の木へ燃え移った。

あっという間に全体を飲み込み、めきめきと音を立てる。

脆くなった木が根元から折れ、マガナミの方へ倒れ掛かってきた。

轟音に身体を大きく震わせ、集落を避けるように森の中へ走り出した。





数メートルも走らないうちに息が上がった。

鼓動が自分のものではないかのように、胸の中で暴れまわる。





これは、何?





私が見たものは、一体、何なの?





吐き気を催すほどの、赤と黒の惨状。

あまりに突然の日常の豹変。





今までも、そしてこれからも、ずっと変わらないと思っていた日々。

楽しいことなどなかった。

しかし、これが当たり前と思ってしまえば、辛いということもなかった。

毎日、毎日、同じ日常の繰り返し。

ずっとこのままでありたいと思っていたわけではない。

しかし、少なくとも、こんな形の変革など考えてもみなかった。





どうして、何故、こんなことに。







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