11.マガナミ -ふるさと-
(2/15)
その日は唐突に訪れた。
現実からの来訪者により、虚構に満ちた温かな風景は、無残に破り捨てられた。
破れ目のザラザラとした繊維を目の当たりにした時初めて、人々は、自分たちの見てきた風景が、色褪せた絵画であったことに気づいたのだった。
当時、外界では、民族間の領土争いが盛んになっており、紛争や、侵略行為が後を絶たなかった。
長い年月を経て効力の弱まっていたまじないに気づき、他の民族がミナ地へ攻め入ってくるのは、必然だったのかもしれない。
怒涛の勢いでミナ地になだれ込んできた異民族は、あっという間に、村を絶望の炎で包んだのだった。
最初に異変に気づいたのは、子どもたちだった。
行ってはいけないと言われていた、まじないの境界付近で遊んでいた二人の少年と、それを追いかけて回る一人の少女。
彼らの耳に、まじないの外から、ざわざわという音が聞こえてきた。
もしもここが内陸地でなく、子どもたちが海を知っていたなら、「潮騒に似た音」と表現したかもしれない。
そして、それはやがて嵐の日の雨音となり、地響きへと変わった。
少年は、大量に押し寄せてくる知らない人間たちを見てキョトンとした。
この光景の意味するところを幼い少年に理解することはできない。
皆一様に、浅黄色の変わった服を着て、長い棒を手に持っている。
その棒の先では、鋭利な形をした石のようなものが、鈍い光を放っていた。
答えを求めるようにもう一人の少年を振り返ると、彼も魅入られたように押し寄せる人の波を見つめている。
少女は荒々しい音に恐怖を感じたのか、ぐずりだしてしまった。
人間の群れは、いよいよ眼前に迫る。
そのまま、まじないを破り、遂にはミナ地の境界を越えた。
少年が、その澄んだ瞳で最後に見た光景、それは、自分に向かって振り下ろされた槍の、重く冷たい輝きだった。
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