生きている意味

10.マガナミ -母-


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しかし、ある日、一人の女性がサリカの変化に気づいたことによって、事態はいよいよ最悪の方向へ向かってゆく。










その事実は、村中を震撼させた。










「サリカが子を宿している」










村では、契りを交わした男女は、神殿の東の塔と西の塔で、それぞれ14日間、肉体と精神の穢れを洗い流す。

しかる後に、吉日を選び、荘厳な婚儀が執り行われ、婚儀が終わると、夫婦となった二人は、神殿の一室で初夜を過ごす。

以降、子を宿すまで、夫婦は神殿に通い続けるのだ。

こうして第一子は誕生し、これ以外の方法では決して生まれない。





この時初めて、村人たちは、あの夜サリカの身に何が起こったのかを悟ったのであった。





「なんてことだ。サリカが他民族の子を身籠っているらしい」

話は、瞬く間に村中に広まった。





なんてうかつなことを。




ヨフテは舌打ちした。

私が始めに気付けていれば、こんな事態にはしなかった。

秘密裏に族長に相談すれば、穏便な解決策が見つかったかもしれないというのに。

苦々しい思いがヨフテの胸を満たした。

しかし、事はすでに動き出してしまったのである。










すぐさま会合が開かれた。

答えの出ない、不毛な話し合いになるであろうことを誰もが予感する会合である。

「こんなことは前代未聞だ」

「だからまじないの外には出るなと、あれほど言ったんだ」

「そうだ、そうだ」

開始早々、数人が息巻き、

「何を言う。お前らだって結局、最後は止めなかったじゃないか」

「あの子は仲間を助けようとしただけだ」

「薬草がなくても病は治ったではないか」

「それは結果論の話だろう」

さまざまな声が飛び交う。

「そんなことより、掟は井染以外のものとの交流をきつく禁じていたわ。カルヴァ様はきっとお怒りよ。ああ、どうしたらいいの」

不安げに女性が声を上げた。

この言葉に、動揺の波が高まる。

小さく悲鳴が上がった。

「そうだ、掟が破られた。サリカを村に置いておくわけにはいかない。追放だ」

ざわめきの中から飛んだ一声に、次第に賛同の声が聞こえ始める。

「そうだ、今ならまだ間に合う」

「追放だ」

「追放だ」




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