10.マガナミ -母-
(5/10)
それから数日間、サリカは目を覚まさなかった。
その間、さまざまな人々がサリカの様子を伺い、世話を焼いて帰っていった。
その中には、サリカが薬草を取りに行こうとした起因である少女の姿も含まれていた。
体調はすっかり回復したようだ。
もちろんヨフテも、暇を見つけてはサリカの家を覗きに行った。
誰もが、サリカが目を覚まして、その日あったことの説明をすれば、すべて解決すると思っていた。
おおかた、岩場で小動物とでも遊んでいて、道に迷ったのだろう。
獣道で服がボロボロになったから、拾った布を巻いていた。
そんなところだ。
風の強い日には、よく干しておいた布が飛ばされる。
本当にそう思っていたのか、問題を先送りにしていただけなのかは、定かではない。
しかし、事は、村の掟を揺るがすほど重大だったのである。
四日ほどして、サリカは目を覚ました。
その知らせに、人々はホッと肩を撫で下ろしたが、後の言葉に顔を曇らせた。
どうやらサリカの様子がおかしいという。
ひどく取り乱し、奇声を上げて暴れ、かと思うと、唐突に黙り込み、さめざめと泣き出す。
正気とは思えない有様だという話だった。
倒れたときの彼女を思い浮かべ、人々は不安げに顔を見合わせる。
一体どうしたというのだろうか。
心配した人々は、彼女の見舞いへと赴いた。
そこで彼らは、想像を絶する光景を目の当たりにする。
甲高い叫び声を上げ、わけのわからない言葉を口走るサリカ。
時折聞き取れる言葉はすべて罵りの言葉だった。
はたと糸が切れたように放心したと思えば、次の瞬間、火がついたように泣きじゃくり、恨みや呪いの言葉を繰り返す。
彼らの想像していた以上に症状はひどかった。
会話もままならないまま、ショックと戸惑いを隠しきれない様子で、人々は家を後にする。
あの穏やかで優しかったサリカが。
まるで別人だ。
しかし。
村人は思った。
それでも、もうしばらくすれば、彼女も落ち着きを取り戻すだろう。
時がすべて解決してくれる。
人々は待った。
そして、いつまでも回復の兆しを見せない彼女を人々はやがて気味悪がるようになっていく。
人々の足は遠のき、世話をする者も減った。
「まったく薄情なやつらだよ。『人々みな助け合え』村の掟を忘れちまったらしい」
ヨフテは、憤懣やるかたない様子で、村人の態度を非難した。
残った女たちは、そんなヨフテの姿を見て、自分たちは、決してサリカを見捨てない、そう誓ったのであった。
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