10.マガナミ -母-
(2/10)
病にかかった隣人のために、彼女が、まじないの外にある岩場まで薬草を取りに行くのは、サリカの性格からすれば、ごく当然で、自然な流れだった。
村人の制止をやんわりと押しのけると、バスケットを抱えてサリカは岩場へと走っていった。
村人たちからためらいのざわめきが起こる。
彼女を案じ、追いかけるべきだという声と、まじないの外に出て外部のものと接触したら、という懸念の声だ。
結局、村人はサリカを追うことはしなかった。
村人たちの性格は、総じて内向的なのだ。
なに、まじないの外とはいっても、岩場は目と鼻の先だ。
今までだって、まじないの外に出たことがなかったわけではないのだ。
例え、屈強な男たちが隊列を組んで、であったとしても。
ちょっと薬草を取ってくるだけだ、きっとすぐに戻ってくるさ。
村人たちは不安を打ち消すようにそう言い聞かせた。
サリカはなかなか戻らない。
時間を追うごとに、村人たちの不安は募る。
まだあの子は帰ってこないのか、薬草が見つからないのだろうか。
彼女が出かける時はまだ高い位置にあった日が、村人たちの目の高さまで降りてきていた。
これはおかしい。
村人の誰もが深刻な顔をした。
日の光が地と接する頃、族長を中心とした会合が開かれた。
サリカの捜索に出向くべきか、否か。
盛んに意見が飛び交う。
時に怒気を含んだその応酬は、一向に収束の兆しを見せなかった。
「一刻も早く捜索隊を出すべきだろう」
「早まるな。そう易々とまじないの外に出ることは、村の掟に反するであろう」
「掟は、他の民族と交わるなとは言っているが、まじないの外に出るなとは言っていない」
「バカ者、何のためのまじないだと思っている。その他民族を寄せ付けぬためだろうが。外の世界を我々は知らないんだぞ」
「じゃあ、サリカを見捨てるって言うのか」
彼女を心配する気持ちは皆同じだったが、生活に根を下ろした掟の力が絶大であることもまた、変えようのない事実だった。
罪ではない。
彼らは気の遠くなるような昔から、そうして生きてきたのだ。
日が完全に沈み、夜も更けてきた。
彼らの会合は未だ決着を見ない。
それどころか、飛び交う会話はただの罵詈雑言と化していた。
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