生きている意味

09.マガナミ -居場所-


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あの頃は、よく泣いた。

自分に向けられる笑顔が、全て偽りだということを悟るのには、ずいぶんと時間がかかった。

希望という言葉が、まだ私の中で影響力を持っていた、幼少時代の話だ。

やがて私も現実を知る。

怯え、時に反発し、そして最終的に、一番被害が少ないのは、大人しく言うことを聞くことだと学んだ。












「家の中を案内しておこうと思って」

掛けられた声に夢想を破られる。

我に返ると、前を歩いていた女性がこちらを振り返っていた。

歪んだ周りの景色が、急速に形を取り戻す。

まずは、家の配置を覚えろということか。

ずいぶんと丁寧だ、とマガナミは思った。

場所も教えられず、そこで用事を済ませてこいという理不尽な要求を受けることは、ざらにあった。

教えられるからには一度ですべてを正確に把握しなければならない。

マガナミはぐっと身構えた。

洗面所、トイレ、風呂場、台所。

生活に必要な水回りを一通り回り、この家の住人の寝室を示される。

両親とあの少年の三人暮らしということだ。

頭の中で配置を何度も反芻する。





再び、先ほど案内された、庭に面した部屋へと戻ってきた。





さて、これからが本番のはず。

マガナミは、どんな要求をされるのかと、小さく息を飲んだ。

しかし女性は、マガナミを見て、やわらかく微笑んだ。

「こんなところかしら。何かわからないことがあったら、遠慮なく聞いてちょうだい。病み上がりだし、慣れないところに来て疲れてるでしょうから、しばらくおやすみなさいな。今、布団を敷いてあげるからね」

そう言って部屋に入ると、押入れの戸を開け、布団を敷き始める。





マガナミは、想像もしていなかった展開に、大いに戸惑った。

これは一体何の冗談なのか。

この後に大きな落とし穴でも用意しているというのか。





そうだ。

そうに決まってる。

喜びが大きかった分だけ、その後の絶望も大きかった。

今までずっとそうだった。

もう、騙されるものか。





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