09.マガナミ -居場所-
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ゴムも何もついていないその帽子をどうしておけばよいか迷ったマガナミは、自分の懐にそれをしまいこみ、再び頭上の平地を目指した。
身体は疲れているが、登り方も要領を得、程よい集中力を保ちながら危なげなく歩を進めていく。
途中、強い風が吹きつけ、岩に叩きつけられるような形になったが、慌てることなく、その場でじっと耐えた。
長い格闘の末、ようやくマガナミは、村人たちの元にたどり着いたのだった。
平地に足がついたことを確認すると、全身を震わせながら崩れるように膝をついた。
身体は火がついたように熱くなり、土砂降りの雨の中にいるかのごとく汗が流れた。
満身創痍の状態で、動くこともできず、荒い息を繰り返す。
砂を踏む足音が聞こえた。
靴はマガナミの数歩手前で止まる。
「汚いねぇ」
緩慢な動作で顔を上げると、老婆がマガナミを見下ろしていた。
露骨に嫌そうな顔をして口を腕で覆う。
「さっさと帽子をお渡しよ。穢れがうつる」
マガナミは慌てて懐から帽子を取り出した。
しかしその帽子は、網目がほどけ、形は崩れ、泥と汗で無残に汚れていた。
マガナミは呆然とその帽子を見つめる。
「なんてことしてくれるんだい。帽子が台無しじゃないか。冗談じゃないよ、まったく」
老婆が金切り声を上げた。
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