生きている意味

09.マガナミ -居場所-


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悲鳴を上げ、我に返ると、マガナミの身体は、ロープによって支えられていた。

締め付けられて胸が苦しい。

疲労と衝撃で息が乱れる。





上空から笑い声が聞こえてきた。

鈴を転がしたような、軽やかな笑みだ。





マガナミはこの笑みを知っていた。

年に一度の例大祭の日に、会場から聞こえてきた笑みだ。

気分が高揚した人々が楽しげに会話を交わし、笑い合う。

その笑い声は一日絶えることはない。

マガナミは会場の外で一人、その様子を羨望の目で見つめていた。





――行きたい





あそこに、あたしも行きたいのに。





ロープ一本で崖に宙吊りになっている自分。

それを笑いながら見下ろす村人。





マガナミの目に涙が溜まった。

慌ててそれを拭う。

その腕は傷だらけで、指先は爪が割れて血がにじんでいた。

拭っても拭っても止まらない。

やがて小さく嗚咽が漏れ始めた。

マガナミの様子を見て、村人たちの笑い声が一段と高くなった。

さぼってんじゃねぇぞ、と言って、村人の一人が足を蹴り上げる。

土や小石が振ってきた。





もう、ダメだ。





そう思ったマガナミの耳に、「頼みたいことがあってねぇ。お前じゃなきゃ出来ないことなのさ」と、老婆の声が響いた。





そうだ。

まだ、帽子を持っていっていないからだ。

きっとあの帽子を持っていったら、私もあそこに混ぜてもらえるんだ。





それは根拠のない確信だったのか、切なる祈りだったのか。





息を整え、顔を拭う。

そして、今となっては頭上にある、藁の帽子を見据えた。

身体を振り、近づいたところで岩をつかんで登り出す。

村人たちは笑うのをやめ、再び表情なくマガナミを眺めた。

手先、足先に神経を集中させて、ひたすら岩を登っていく。

身体中で呼吸をする。

汗が滝のように流れた。

今、マガナミの意識には、岩と、手足と、自分の心音しかなかった。





ようやく藁の帽子のかかっている木へたどり着いた。弾む息の合間から、ホッとため息を漏らす。

左手を伸ばし、帽子をしっかりとつかんだ。

やった、取った。

マガナミに力が戻る。



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