生きている意味

09.マガナミ -居場所-


(3/8)


岩の突き出た部分を目指し、手を伸ばし、足を掛ける。

少しずつ自分の体重をかけ、崩れないことを確認してから身体を移す。





大丈夫、大丈夫。

確認しながら少しずつ降りていけば、きっと大丈夫だから。





自分に言い聞かせながら手足に力を込める。

しかし、緊張した筋肉は、時々糸が切れたように弛緩し、その度に危ういところで体勢を立て直した。





そっと崖の上を見上げる。

村人たちは、無感情にマガナミの動作を眺めていた。

マガナミは、誰かが、冗談だと言って自分を引き上げてくれるのを期待した。

しかし声は振ってはこなかった。





次第に疲れで息が上がってきた。

手の握力がなくなり、足が震える。

想像以上に疲労しているようだ。

岩を掴んだ手が滑った。

慌てて掴み直そうとするが、それもまた滑る。





マガナミはパニックに陥った。





このままでは、たとえ帽子にたどり着くことが出来ても、上まで戻る体力が残っていない。

荒い川の流れが足元でうなる。

少し、ここで息を整えよう。

体力が回復したら、また動き出せばいい。

そうだ、落ち着いて。

暴走する心を必死で押さえつける。





――誰か







怖いよ。










怖いよ。










張り裂けそうな感情が叫ぶ。










「なに止まってるんだい」

老婆の声が聞こえてきた。

同時に、上から何かが降ってきた。

バラバラと音を立ててマガナミの顔に降りかかる。

目や口の中に落下物が入り込んだ。

「やっ」

視界を奪われ、バランスを崩す。

岩をつかんでいた手が空を切った。





瞬間、息を呑む。





全身に重力がかかるのを感じた。










一瞬の落下が、永遠にも思えた。








(3/8)

- 46/232 -

[bookmark]



back

[ back to top ]

- ナノ -