06.サクラと少女と拙い会話
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マガナミの瞳は空虚で、顔からは表情がすべてそぎ落されている。
「わからない。けど、私は、まだ、生きなければならない」
搾り出した声は、砂漠の砂のように乾いて、かすれていた。
ずいぶんと大きな話が出てきたものだ。
生きなければならない、か。
わざわざ「生きる」という言葉を持ち出してくるということは、つまり「死」を意識しているということだろう。
それにしても、生きるという言葉に、こんなにも絶望感が漂うものなのだろうか。
生きることは苦痛でしかない。
そう感じているように見える。
もしや崖から落ちたというのは、事故でも事件でもなく…。
いや、しかしマガナミは、確かに自分の口で生きなければと言ったのだ。
――ったく、何考えてんだかまったくわかんねー。
女ってのは何でこんなに厄介なんだ。
第一、生きるとか死ぬとか、オレには赤の他人の人生なんて重てーもの、背負いきれねーよ。
シカマルはもはや白旗を上げたい気分だった。
一体この後はどうすればよいのやら。
「シカマル、ねえ、今日はもうおいとましましょうよ」
サクラがやんわりと面会の終了を促す。
「けどよ…」
マガナミの身の振り方はまったく決まっていない。
「急に聞かれてもすぐにはわからないわよ。どうせあと数日は入院なんでしょ。ゆっくり考えてもらえばいいじゃない」
ね、と念を押される。
確かに、マガナミはあと数日は入院だ。
それに、今日の話で、彼女について謎が深まったようにも感じられる。
こちらの対応も考えなければならない。
それいかんによっては、マガナミの願い出を聞き届けられない場合も出てくるだろう。
「ああ、そうだな」
サクラの言うとおり、ここは日を空けるのが得策というものだ。
「この話はまた今度だ。退院までにどうしたいか、考えといてくれよな」
立ち上がりながら、俯くマガナミに声をかける。
マガナミは戸惑った様子で視線を泳がせた。
「今日は質問ばかりになっちゃってごめんなさいね。また来るわ」
サクラが笑顔を作る。
いすを元の位置に片付けて、病室のドアの方へ向かう。
「お大事にね」
「無茶すんじゃねーぞ」
一言ずつ声をかけ、二人は病室を後にした。
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