06.サクラと少女と拙い会話
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気になる点は他にもある。
マガナミは川の中に落ちたという。
しかし彼女が発見されたのは里の道端。
近くに川はない。
シカマルの考えたとおり、彼女を里まで運んだ人間がいるのかもしれない。
しかもそれは通りすがりの親切な人間ではない。
彼女の安否を気遣っただけなら、真っ先に木ノ葉の門に運び込むはず。
それをせず、木ノ葉への進入を選んだということは、何らかの目的があったということだ。
「マガナミ、お前は川に落ちたって言ってたが、お前が倒れてたのは、木ノ葉の里の道端だ。オレらは、お前をここまで運んできた人間がいるんじゃないかと考えてる。お前には仲間がいるんじゃないのか」
マガナミはしばらく言葉の意味を吟味しているようだった。
そして、ようやく質問の趣旨を飲み込んだのか、ゆっくりと首を横に振る。
「そういう人は、いない。ホント、よ」
おそらく彼女は嘘をついていない。
シカマルはそう直感した。
先ほどの、深い悲しみに暮れた笑みが脳裏に浮かぶ。
あれは、たぶん、本当に孤独な人間にしかできない表情だ。
加えて、故郷という言葉への過剰反応。
彼女の境遇は、あまりよいものではなかったのだろう。
他人に対して示す必要以上の警戒心や拒絶も、周囲の環境がそうさせたのかもしれない。
彼女には、共に行動するような人間はいなかった、そう思えてならない。
少なくとも、彼女の方には、心当たりはないと考えてよいのではないか。
「そうか、わかった」
また、なんとなく全員が黙り込む。
わっと窓の外で歓声が上がった。
甲高い子どもの声だ。
声に混じって何か固いものが当たるような音も聞こえてくる。
おおかた、木の枝か何かでちゃんばらでもしているのだろう。
勇ましい叫び声と笑い声とが高らかに響いている。
やがて、軽快に駆け出す足音とともに、子どもたちの笑い声は遠ざかっていった。
さて。
とりあえず今聞けることはあらかた聞いた。
事態の打開に繋がるような答えは得られなかったわけだが。
あとは彼女の今後について決めなければならない。
シカマルは再び口を開いた。
「それで」
シカマルの声に二人がこちらを向く。
マガナミからは表情は伺えない。
サクラは沈黙が気まずかったのか、ホッとした表情を浮かべている。
「お前はこれからどうしたいんだ」
マガナミに視線を向ける。
「なんかねーのか。どこ行きてェとか、何してェとか」
帰りたい、とか。
という言葉は飲み込んだ。
とてもそうしたがるとは思えなかったからだ。
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