06.サクラと少女と拙い会話
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「質問を変える」
シカマルは、努めて普通の調子で話題を移した。
マガナミは、悪夢から目を覚ました子どものように、とろんとした瞳を向けた。
「何でこの里に来たんだ?目的はなんだ」
さらに口を開こうとしたシカマルをサクラが制した。
「シカマル、これじゃ尋問みたいじゃない」
マガナミを心配そうに見る。
確かに、少し矢継ぎ早に質問をしすぎたか。
ずいぶんと動揺したようだったし、もう少し間を空けるべきだったのかもしれない。
きまりが悪くなってマガナミを見ると、当の本人は、いまだ夢うつつといった感じで、遠い目をしている。
今の話も、聞いているんだかいないんだか。
どう対応するべきかと様子を伺っていると、マガナミが、ぽつぽつと小さな声で語った。
「わからない。どうしてここにいるのか。どうしてここに来たのか。ここがどこかも、わからない」
質問の内容は聞こえていたらしい。
どうやら、というより、やはり、本人は木ノ葉へ来た経緯を把握していないようだ。
もちろん、マガナミの話を鵜呑みにすれば、だが。
「じゃあ、怪我は?あなたのその怪我、めったなことで負うものじゃないわ。何があったか、覚えてる?」
サクラが尋ねる。
マガナミはわずかに目を細めた。
まつげが小さく震える。
次の瞬間、シカマルとサクラは驚いて息を呑んだ。
マガナミの唇がほんの少し緩んだ。
笑みを浮かべているのだ。
自分が大怪我をした原因を聞かれて微笑むとは、一体どういう心理状態にあるのだろうか。
訝しんでマガナミの表情をまじまじと見る。
そこから読み取れる感情に気づき、二人はそれ以上、何も言えなくなってしまった。
今までに一度として、こんなに悲しい笑みを二人は見たことがなかった。
他人をそして自分自身をも、諦めて手放してしまったような失意の瞳。
その失意を外へ逃がすように浮かべる小さな笑み。
彼女にここまでの表情をさせるものは、一体何だ。
「崖から落ちて、下は、川だったから、たぶん、飲まれて…」
マガナミの声に、ハッと我に返る。
崖から落ちて川に飲まれた。
それではあの怪我も頷ける。
しかし、何が原因だ。
ただの事故か。
それとも…事件か。
「大変だったのね。無事で本当によかった」
サクラも深くは追求しない。
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