31.手紙(完)
(3/5)
わたしは、けっして生まれてはいけない存在だった。
わたしは、村の大きなタブーだったの。
村のみんなはわたしの存在が許せなかった。
だけど追い出すこともできなかった。
それが村のおきてだったから。
わたしはイソメ村の罪の象徴だった。
それ以外の意味がなかったの。
それだけが、わたしの存在意義だった。
一生このまま、罪の証として生きて、死んで行くんだと思ってた。
だけど、みんなに出会って…あなたに出会って…わたしは変わった。
自分自身に未来を見ることができたの。
シカマルやいのやチョウジやサクラの仲間でいること、みんなと笑い合うこと、みんなを信じること、みんなを守ること、できるようになった。
いろいろなことができるようになった。
縁側でししおどしの音を聞いたり、ねこと一緒にお昼寝したり、みんなで買い物したり、ときどき寄り道もした。
けんかもした。
それから、仲直りも。
夏祭りに行って、わたあめも食べた。
あのわたあめ、おいしかったなぁ。
またみんなで、食べたいな。
なんて。
こんなふうに思えるようになって、わたし、自分のことほこらしいと思ってる。ホントだよ。
そうそう、小さいみんなにも会いました。
みんなすごくかわいいよ。
元気いっぱい店番してるいの、やさしく笑うチョウジ。
それから、あなた。
あなたは少し生意気だった。
ベンチに来て、何も言わずに空を眺めて、時々大人びたことをさらりと口にしたりして。
少し笑ってしまった。
ごめんね。
変わってないね、昔から。
みんながわたしのことを守ってくれたように、今度はわたしがみんなを守るからね。
信じて。
必ず守るよ。
約束する。
いよいよその時が来るって確信した時、わたし、たまらなくあなたに会いたくなった。
時を隔ててしまった今となっては、叶わないことだって、そう言い聞かせてたはずだったのにね。
だけど、そんなことなかった。
あなたはあの夏祭りの日に言ってたね。
空はどこまでも続いていて、みんなとつながっているって。
それは本当だった。
わたし、あなたに会いにいったんだよ。
風になって。
あなたは気づいていたのでしょうか?
あの時、あなたはわたしを見上げて、不思議そうな顔をしていた。
だけどその瞳は確かに私をとらえていたんだよ。
すべてを見すかすようなあなたの視線を私は感じていた。
その視線が、懐かしくて、温かくて、とても安心した。
ああ、シカマルだ、って。
わたし、思ってたの。
ずっと、風になりたいって。
そうすれば、形は変わっても、ずっとみんなのそばにいられる。
いつまでもみんなと一緒にいられる。
私はいつでもみんなを包んでいて、みんなはいつでも私を感じるの。
それってとても素敵。
だからこれからは、命の大きな流れの一部になって、ううん、全てになって、あなたたちを見守って行きます。
あなたたちが歩き、ふれ、笑い合い、眠るこの世界になって。
私が今、本当にしあわせな気持ちでいるって、ちゃんと伝わっていますか?
わたししあわせです。
心から。
たましいから。
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