31.手紙(完)
(2/5)
『シカマルへ』
この手紙、読んでくれていますか?
だとしたら、小さなあなたはちゃんと手紙をとっておいてくれたんだね。
よかった。
元気にしてますか?
まだ、わたしのこと、おぼえてますか?
おぼえててくれるといいんだけど。
この手紙を書いているのは、あなたと別れてまだ数週間しかたっていないころですが、なんだかもう何十年も会っていないように思えます。
けれど、わたしは今も、あなたの姿を目の前に見ることができるよ。
シカマルには、わたしの姿が見えますか?
遠い遠い空の向こうにわたしはいて、遠い遠い空の向こうにいるあなたのことを思っています。
空はいまも変わらず、わたしたちをつないでいるんだよ。
こんなにお世話になったのに、あんな形でとつぜんみんなのそばを去ってしまいました。
それが心残りです。
もっとちゃんとお礼が言いたかったな。
もし、まだみんながわたしをおぼえていたら、伝えてください。
そちらの天気はどうですか?
気持ちよく晴れていますか?
こっちも晴れています。
けれど、すこししっけがまじっているみたい。
もうすぐ雨がきます。
さいごの仕事をする前に、シカマルに手紙をかくことにしたの。
言いたかったけれど言えなかったことがたくさんあるから。
ぜんぶ書けるかどうかわからないけれど、すこしでも多く、わたしの気持ちを伝えたい。
シカマルには、いっぱいお礼を言いたいの。
何度も、何度も、お礼を言いたい。
わたしを助けてくれてありがとう。
道ばたに倒れていたわたしを病院に運んでくれてありがとう。
あのとき、シカマルが助けてくれなかったら、わたしの未来はなかった。
安らぎも知らなかった。
よろこびも知らなかった。
しあわせも知らなかった。
ぜんぶ、ぜんぶ、シカマルがおしえてくれたんだよ。
あなたとであったころのわたしは、こんな気持ちが存在することすら知らなかった。
でも、知った瞬間、わかったの。
わたしはこれを求めてたんだって。
知りたかった。
ずっとずっと、知りたかったの。
安らぎも、よろこびも、しあわせもぜんぶ。
知りたかったことぜんぶ、あなたがおしえてくれた。
ありがとう。
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