30.風になる
(8/10)
太陽の一部を雲が隠す。
屈折した光が、強くシカマルを照らした。
ああ、特別なんだ。
この人は、私にとって。
だからこんなに神々しく見えるんだ。
「ねえ、シカマル。お願いがあるの」
シカマルは、あん?と片眉を上げた。
「名前を付けてほしいの」
「名前?」
「そう」
「何の?」
サラは微笑する。
「その時がくればきっとわかる」
シカマルは脱力した。
「何だそりゃ」
もっともな返答だとサラは苦笑する。
けれどそれで十分だということも知っていた。
「ね、お願い。きみじゃないとダメなの」
シカマルは胡乱な目でサラを眺める。
サラはその目を真剣な眼差しで見返す。
しばらくの間視線だけのやり取りが続いた後、シカマルはため息をついて頭を掻いた。
「よくわかんねーけど、名前をつけりゃいーんだな。その時とやらが来たら」
サラはパッと表情を明るくする。
「そう」
「わーったよ」
「ありがとう!」
サラは大きく微笑んだ。
「忘れないでね」
「まあ努力はするけどよ、保障はできねーぜ」
サラは首を振る。
「それでいい」
私がいなくなれば、このやり取りはなかったことになって、彼は約束を忘れてしまうだろう。
けれど、『彼女』が木ノ葉に辿り着くことによって、記憶は呼び覚まされる。
それはわかっているんだ。
だって私は名前をもらったから。
(8/10)
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