30.風になる
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サラはすぐ下の道に目を向ける。
ちょうど小さな彼がこちらにやってくるところだ。
サラは柔らかく瞳を細めた。
間もなく階段を上り切った彼が姿を見せる。
「また来たんだ」
サラは無償に嬉しくなって、その気持ちを紛らわすために、からかうように笑う。
「あんたこそ」
小さなシカマルはいつもの通りブスッとした表情を浮かべている。
「まあね」
彼はストンと横に腰を下ろした。
サラは両手を組んで、思い切り伸びをする。
サラサラ、と、木ノ葉がじゃれ合って音をくすぐっている。
風が光を散らす。
二人はいつものように、特に言葉を交わすこともなく、ただ空を眺めていた。
その気兼ねない静寂に、サラはそっと声を落とす。
「いい里ね、ここは」
視線は前に向けたままだけれど、彼がこちらを見たのがわかる。
唐突に何を言い出すのかと、訝しげな表情を浮かべているに違いない。
「私、この里に恩義があるの」
噛み締めるように、歌うように、呟く。
「前も聞いたよ」
シカマルは疑問符を浮かべながら応じる。
サラはそのまま口を閉ざした。
雲が、ゆっくりと空を流れる。
「いつか」
再び沈黙を破り、サラは口を開く。
「私の知り合いが木ノ葉に来るかもしれない。その時は、よろしくね」
サラはある少女を思う。
絶望の中に閉ざされた、ある少女のことを。
「知り合い?」
「そう」
「いつ来るんだよ?」
「いつか。もっとずっと先」
「ずいぶん曖昧だな。どうして、そんなことがわかるんだよ」
シカマルはわけがわからないという様子で尋ねる。
「私が、行けって言うからよ」
サラはにっこり笑って、誇らしげに答えた。
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