30.風になる
(4/10)
家を後にして、サラはあの場所に向かった。
あそこからの景色もこれで最後だ。
道程を楽しむように一歩一歩足を踏み出す。
建物横の外階段、これを登るのも最後。
階段を登り切った先に置かれた大きなベンチ、視界に入った時の安心感もこれが最後。
ベンチにそっと手を触れる。
木の感触が心地よい。
木ノ葉の人々のぬくもりを宿した、思い出の象徴のようなベンチ。
もう一度さらりと撫でてゆっくり腰を下ろす。
大きく伸びをして上を仰ぐ。
映るのは、未来だ。
あの空の向こうに未来が続いている。
空に向かって手を伸ばす。
太陽の光が指の間から差し込む。
みんな、いるの?
自分を仲間と呼んでくれた人たちの顔が浮かんでくる。
チョウジ。
最初は大きな身体が恐かった。
けれど、その大きさの分だけ、あなたは優しかったね。
私とシカマルを仲直りさせてくれた時、そっと握られたあなたの手の温もりが心地よくて、とても素直になれた。
ありがとう。
サクラ。
いつも私を後ろから支えてくれた。
初めての私の女友達。
そう思うと何だかくすぐったいな。
柔らかく微笑んでそっと後押ししてくれるあなたを振り返ると、すごく安心できたよ。
ありがとう。
いの。
私を前へ前へ引っ張ってくれた。
転びそうになった時は力強く手を差し伸べてくれたね。
あなたからは素敵な贈り物ももらった。
シオンの花に、雫のネックレス。
嬉しかった。
けれど、一番の贈り物は、あなたが差し伸べてくれた力強い手だよ。
ありがとう。
アスマ。
あなたが私の頭を撫でてくれた時、初めてみんなに受け入れられてるって実感できた。
ここにいてもいいんだって、そう思えたんだ。
ねえ、あなたは私が、あなたに父親を見ていたことに気付いていた?
低くて安定した声が好きだったよ。
ありがとう。
それから。
──それから。
シカマル。
あなたが私を助けてくれなかったら、私は今ここにいなかった。
こうして、あなたたちの未来を守ることも、できなかった。
そう思うと少し怖いよ。
あなたは私に居場所をくれたね。
奈良家に置いてくれて、暖かな寝床をくれて、素敵な仲間に引き合わせてくれた。
私が家に帰ると「おかえり」って言ってくれた。
普段は無愛想なあなたが時々大きく笑ってくれるとドキドキしたんだ。
風にそよぐ夏草のような笑み。
夏祭りの日、屋台のわたあめに魅入られていた私に向かって「お前がそんなに笑うの初めて見たぜ」と言った時のあなたの笑顔は、私にとって初めての「特別」な笑みだった。
あの時の星空、綺麗だったなぁ。
──ああ──
会いたいなぁ。
彼に
もう一度。
この空を辿れば、会えるかなぁ。
(4/10)
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