30.風になる
(3/10)
ある朝目が覚めた時、サラは微かな匂いを嗅いだ。
そう、予感には匂いがある。
それはごく僅かで、しかし存在感に溢れた匂い。
サラの胸は激しく音を立てていた。
けれど一方で頭は気味が悪いほどに冴えている。
戸を叩く音がしたので、ゆっくり玄関へと歩いていった。
「や」
訪ねて来たのはカカシだった。
そうであろうということは既に分かっていた。
彼は里を空けることを伝えに来たのだ。
「いやー、二、三日里を空けることになってねぇ。近々里を出て行く予定ある?」
サラは静かに頷く。
「今日か明日」
「あらー。恩返しは終わったってわけね」
それには首を横に振る。
「それはこれから」
「ふーん…。にしても困ったね。いろいろ聞きたいこともあったのに。オレが帰ってくるまで待てない?」
そうできたらどんなにいいかとは思うのだけど。
サラは申し訳なく思った。
彼の言い分は最もだからだ。
「ごめんなさい」
ただ謝ることしかできない。
「ま、とりたてて不審なことをしてたわけでもないし、いいんだけどね」
「あなたには感謝しています。信じてくれてありがとう」
「ん。じゃあ時間もないしそろそろ行くよ。部屋はそのままにしといてもらっていいから。慌ただしいお別れだけど、ま、元気でね」
「はい。あなたも」
サラの返事を聞き終えてから、カカシは姿を消した。
慌ただしいお別れ、本当にそうだ。
こんなに世話になったのに、そのお礼もろくに言えないまま彼は行ってしまった。
そして、もう二度と彼に会うことはない。
彼が今さっきまでいた空間を見つめる。
まだ彼の気配が残っているような気がした。
彼にもずいぶん助けてもらった。
シカマルたちに見捨てられたと思って途方に暮れていた時、彼が私を見つけて木ノ葉まで連れて帰ってくれた。
チョウジのために薬草を取りに行った時、彼が手伝ってくれた。
私が里の外で忍に襲われた時、助けるために駆けつけてくれた。
そして、こうして、私が何も言わずに木ノ葉に居て、去って行くことを許してくれた。
ありがとう、本当に、ありがとうございました。
サラは思いついて彼に手紙を書いた。
助けてもらったお礼、いろいろと世話を焼いてもらったお礼、それから、もし出来るなら自分を木ノ葉に埋葬してくれないか、と。
木ノ葉に永眠ることができたら、私は木ノ葉の一部になれる。
そうすればきっと、未来で彼らを見守ることができる。
最期まで無理なお願いばかりでごめんなさい。
でもきっと、彼なら願いを聞き届けてくれるだろうと、サラは思った。
さようなら、カカシ。
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