生きている意味

30.風になる


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チョウジにも会った。

彼は昔から優しい人だったのだと、その時知った。

ちょっぴり気が弱かったのだということも。



その時サラは小道を歩いていた。

そびえ立つ岩壁のすぐ脇の小道だ。

その道の先で子どもたちが遊んでいた。

その中にチョウジもいた。

じゃれ合う子どもたちから一歩引いた位置で、彼らを見守るようにニコニコしている。

あの穏やかな表情に何度も安心させられたな、と温かい気持ちになって歩いていく。

しかし、サラはすぐに顔色を変える。

彼らの遊んでいる付近の岩壁から、岩の欠片が落下していることに気付いたからだ。

そんなに大きなものではないが、頭に当たれば大怪我をする危険もある。

反射的に駆け出すが、距離が開きすぎていて到底間に合わない。

「危ない!そこから離れて!」

大声で叫ぶものの、遊びに夢中の子どもたちは気付かない。

岩は一番岩壁側にいる男の子の頭上に迫っている。

その時、チョウジがふと上を向いた。

そして、迷うことなくその子を突き飛ばした。

男の子はもんどり打って倒れ込む。

空いた空間に岩が勢いよく転がってきた。

間一髪だ。

サラはホッと胸を撫で下ろした。

危なかった。

チョウジのお手柄だ。

けれど、突き飛ばされた男の子は猛然と怒り出してしまった。

他の子どもたちもチョウジを非難している。

どうやら岩の落下には気付かなかったようだ。

チョウジは弁解しようとするが、他の子どもたちの勢いが激しくて、うまく説明させてもらえない。

ついにしょんぼりと下を向いてしまった。

サラは子どもたちの元に歩み寄っていく。

「待って」

子どもたちは突然割り込んできたサラを攻撃的な眼差しで見る。

「なんだよ!こいつが悪いんだぜ!急に突き飛ばして来たんだから」

男の子が主張すると、周囲から同意の声が上がった。

チョウジはシュンとうなだれたままだ。

「見てた」

「なら文句ねーだろ!」

サラは岩の破片を拾い上げる。

「これ、なんだかわかる?」

子どもたちは怪訝な顔をしてその破片を見た。

「何だよ、ただの岩の欠片だろ」

「これね、あの岩壁の上の方から落ちてきたの」

サラは男の子に視線を合わせる。

「きみの頭の上に」

男の子はハッとしてチョウジを振り返った。

「じゃ、じゃあこいつがオレを突き飛ばしたのは…」

サラは頷く。

子どもたちの間に気まずい空気が流れる。

みんな黙り込んでしまった。

男の子も、何か言いたそうにしているが、チョウジに視線を向けるだけでむっつりしてしまっている。

あれだけ攻め立ててしまった後だからばつが悪いのかもしれない。

サラはシカマルと初めて喧嘩して、初めて仲直りした時のことを思い出した。



あの時、自分もなかなかごめんなさいの一言を言い出せなかった。

そんな私たちを仲直りさせてくれたのがチョウジだったね。



サラは男の子の手とチョウジの手を取った。

「な、何だよ!」

男の子は驚いて小さく抵抗する。

サラはそれを振り切って二人の手を合わせた。

ギュッと互いの手を握らせる。

「はい。仲直りはこうするの」

ね、と男の子の顔を覗き込む。

すると、彼は憑き物が落ちたようにおとなしくなって、ゆっくりチョウジに向き直った。

「チョウジ、悪かったな。助けてくれてありがとう」

他の子どもたちもそれに習ってチョウジに謝罪の言葉を述べる。

チョウジはパッと顔を輝かせて首を振った。

「ううん!怪我がなくてよかったよ!」

チョウジの反応を見ると、男の子は安心したように笑った。

「よし!ここは危ないから場所を移して遊ぶぞ!みんなついて来い!」

男の子の号令で、みんなはワッとかけて行く。

チョウジは、サラの方を向いてにっこり微笑んだ。

「ありがとう」

サラは小さく頷く。

「よかったね」

チョウジは大きく頷いてから、みんなの後を追いかけていった。


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