28.生きている意味
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マガナミはキラキラした瞳でシカマルを見つめている。
その瞳が、更に輝きを増した。
「シオン……。あの花の名前だね。花言葉は…」
「君を忘れない」
いのとサクラが言葉を継いだ。
「シオン…いい名前。私の、名前」
「そう、お前の名前だ」
マガナミ、いや、シオンは満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう。嬉しい。私、幸せ。今、すごく幸せ」
シカマルは堪らずに拳を握った。
気付くと、周囲の木々がその内から光を放っていた。
柔らかくて温かそうな仄かな光だ。
その光はやがて辺り一帯を満たし、そしてシオンに降り注いだ。
シオンの身体が光に包まれていく。
治療を継続していたいのとサクラはどうしてよいのかわからず、困惑顔で互いを見つめた。
シオンがそっと囁く。
「ありがとう。もう大丈夫」
「お、おい…」
シカマルは思わずシオンの肩に触れる。
シオンはそっと手を重ねた。
「もう行くね。約束、守ってくれたから、今度は私の番」
「んなの…」
そんなことは、約束なんてどうでもいいんだ。
「サクラ、いの、チョウジ、アスマ、カカシ、シカマル。みんなに会えて本当によかった。ありがとう。私にも、生まれてきた意味、ちゃんとあった」
マガナミの身体が少しずつ透けてゆく。
「それを今からしに行きます。きっと、上手くやってみせます」
みんな、黙ったまま俯いている。
「だから、最期に呼んで?私の名前。そうしたら私、がんばれるから」
お願い、と頼む声に、アスマが最初に応える。
「シオン」
続いてカカシが、チョウジが、いの、サクラ、みんなが彼女の名を呼んだ。
シオン。
マガナミは嬉しそうに目を細めた。
そして、シカマルを見る。
「シカマル…」
シカマルはマガナミに触れた手に力を込めた。
「シオン……」
やり場のない感情が触れた手へと流れてゆく。
決めたはずの覚悟が、揺らぐ。
「…………いくな」
シオンは重ねた手をキュッと握る。
「忘れないで。私がいたこと」
シオンの身体を包む光がひと際強くなった。
彼女の姿が光に埋もれる。
「大丈夫。また会えるよ」
光は空に向かって昇りはじめた。
少しずつ、泡のようになって消えてゆく。
後に残されたのは、手に残った彼女のぬくもりだけだった。
「バカヤロウ。『オレたち』はもう、お前には会えねーだろうが」
20160605
(10/10)
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