生きている意味

27.夏の終わり


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「行け」

男は少女を拘束していた腕を解いた。

少女は一目散に母親の元に駆け寄る。

「チコ!よかった!」

よし、それでいい。

なけなしの理性がある人間でよかった。

マガナミは抱き合う三人を後ろ手に庇う。

そして、男たちを睨みつけたまま、母親に小声で囁いた。

「速やかにここを離れてください。木ノ葉がいいでしょう。大門で保護を求めてください」

母親は子どもたちを引き寄せる。

「はい」

「けれど、あの男たちはあなたたちがここから立ち去るのを快く思わないかもしれません。その時は決して逆らわないで。大丈夫、大人しくしていれば、危害を加えられることはないと思います」

「…はい」

「私が合図したら思い切り走ってください」

母親はもう一つ返事をすると、子どもたちに言い聞かせて準備をさせた。

「話し終わったぁ?」

男たちはマガナミたちが会話しているのを敢えて黙って見ていたらしい。

完全に面白がっている。

余裕の表情をさせているのは自分だとマガナミは唇をかんだ。

実力不足が露呈しているのだ。

それでも、この人たちだけは無事に帰さなければならない。

マガナミは挫けそうになる心を必死に鼓舞して、歯を食いしばった。

唯一の活路は、相手が自分をなめきっていることだ。

マガナミは腰にあるホルスターを意識する。

短く吐き出した息と共に相手に向かってクナイを放った。

「走って!」

マガナミの声を受けて、親子が走り出す。

クナイに結び付けてある捕獲用の網が、空中で大きく開く。

それで動きを封じられてしまえば話は簡単だが、相手は軽々とそれをかわして樹上へ飛ぶ。

すかさず、樹上目がけて煙幕を投げつけた。

「おいおい、それじゃオレたちが地面降りちゃうと役に立たなくなっちゃうんじゃないの?」

煙の中から声がしたかと思うと、影が二つ降ってきた。

着地した途端、その足が跳ねる。

「イテテッ」

「うおっ!撒きびしかよ!初歩的すぎて考えつかねーよ」

マガナミは着地点に撒きびしを敷いておいた。

とにかく時間稼ぎをしなければと必死に悪あがきをする。

それから、それからどうしよう。


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